第十三話「グラン=アルカディア」
王都アルカディアの大通りは、想像以上に整然としていた。
白い石畳。
規則正しく並ぶ建物。
行き交う人々の足取りには、王都特有の余裕と誇りが滲んでいる。
『……金持ちが住んでいそうだな。』
「そりゃ王都だしな……。」
ジークが周囲を見回しながら呟く。
通りすがりの子供が、我を見て母親の後ろに隠れるのが横目に見えた。
『…我が魔獣の姿だからか…』
いや、元の姿だったとしても、それはそれで怯えられるだろう。
そんなことを考えながら、改めて王都を見渡す。
『…ここを襲撃…か。』
魔王軍が本気で動けば、ここも例外ではない。
それを止めるために、我らはここへ来た。
目指す先は王城。
王都の中心に聳え立つ、白亜の城。
その存在感は、街のどこからでも視界に入るほど圧倒的だった。
「……王に会えるのか。」
マーシャが小さく呟く。
『王都を治める者だ。容易ではあるまい。』
「でも、今の私達にできるのは、それしかない。」
マーシャの声には迷いがなかった。
王都が襲撃されるのであれば、国王に状況を報告し、協力を得て迎撃するしかない。
それならば、進むしかないのだ。
城門前に辿り着くと、重装の近衛兵が道を塞ぐ。
「ここから先は王城だ。用件を述べよ。」
ジークが一歩前に出る。
「俺は冒険者のジークと言います。
魔王軍の動きについて、王に直接お伝えするため、都市リューグラードから来ました。」
近衛兵の視線が、我へ向けられる。
「……魔獣を連れて?」
『……話を聞いてから判断しても遅くはあるまい。』
兵士は一瞬躊躇し、やがて奥へと合図を送った。
しばらくして――
城門が、静かに開く。
「……入れ。」
その声には、拒絶も警戒もなかった。
王城内部は、広く、静かだった。
装飾は控えめだが、磨き上げられた床と柱が、この城の歴史と格を物語っている。
そして――
玉座の間。
そこに、王はいた。
玉座に腰掛ける赤髪の男。
年齢は壮年。
鋭い眼光。
背筋を伸ばし、ただ座っているだけで空気が変わる。
『……』
本能が、警鐘を鳴らす。
――強い。
どことなく覚えのある感覚-
以前イズナと出会った時のような、格の違いを感じさせる。
「よく来たな。」
低く、よく通る声。
「俺がこの王都を治める王、グラン=アルカディアだ。」
この男が、王都の象徴。
「用件を聞こう。」
視線が、我らを射抜く。
ジークが一歩踏み出し、深く頭を下げた。
「…王様、俺たちはリューグラードで、魔王軍幹部の襲撃を受けました。」
「……ほう。」
「幹部は撤退する際、『次は王都だ』と――
そう言い残しました。」
玉座の間に、沈黙が落ちる。
『……我も、その戦闘に立ち会った。
魔王軍は、既に動いている。』
グランはゆっくりと立ち上がった。
「…なるほど。」
驚きはない。
焦りもない。
「魔王軍が王都を狙う可能性は、当然想定していた。」
『……では。』
グランは我らを見つめ、静かに告げる。
「協力を求めに来たってことだな。」
マーシャが一歩前に出る。
「はい。…私達だけでは、王都を守り切れません。」
「……正直でいい。」
グランは、僅かに口角を上げた。
「いいぜ。」
その一言で、空気が引き締まる。
「王都アルカディアは、俺が守る。」
「…王様も、戦うんですか?」
ジークがグランの方を見上げて問う。
「当たり前だ。俺は王だが、Sランク冒険者でもあるからな!」
「え、Sランク冒険者!?」
「驚いたか?Sランク冒険者の『剣聖』と言えば俺の事だぜ。」
「…『剣聖』…なんか、二つ名みたいなやつですか?」
「まぁ、そんなところだ。」
『…やはり規格外か…。』
「とはいえ、戦いは俺一人で行うものじゃないからな。」
グランは近衛兵へ視線を向ける。
「王都在住のAランク以上の冒険者を集めろ。至急、作戦会議を開く。」
「はっ!」
『……』
事が、確実に動き始めた。
「王、アルテミス様は現在別の街へ向かわれており、作戦会議には参加できません。」
近衛兵が告げると、グランは一瞬眉を動かしたが、すぐに話を続ける。
「わかった。」
アルテミス
その名に、マーシャが小さく反応したように見えた。
「他の精鋭は揃う。王都の総力をもって迎え撃つ。」
グランは、再び我へ視線を向ける。
「お前、ただの魔獣じゃないよな?」
『……冒険者だ。少々、変わった姿をしているだけの。』
「ふむ。」
グランはそれ以上踏み込まなかった。
――探る眼は、確かにあったが。
「名前を聞いておこうか。」
『……ダイオウだ。』
「そうか、ダイオウ。」
グランは頷く。
「王都を守る意志があるなら、立場は問わん。戦場では、力ある者が必要だ。」
『……感謝する。』
「礼は勝利で返せ。」
短く、重い言葉だった。
「冒険者が揃い次第、作戦会議を行う。
お前達も参加しろ。」
「はい!」
「……分かりました。」
王都の精鋭が集う場。
そこで何が語られ、誰が現れるのか。
――そして、魔王軍はいつ動くのか。
魔王軍が企てる王都の襲撃。
迎え撃つため国王-
剣聖グランが立つ。
物語は、確実に次の局面へ進んでいた。
同時刻、王都警備兵団の寮-
共用部のソファに、男が一人腰掛けている。
「…そろそろ、城に着いた頃だな。」
黒い長髪に黒い眼鏡をかけた男-
警備兵団の副隊長、アルスティアである。
「…私も、動くとしよう。」
立ち上がり、窓から外を見つめる。
「…魔王軍は、一人残らず殲滅する。」
そう言い残し、アルスティアは暗闇に消えた。




