第十一話「前哨戦」
踏み荒らされた大地、砕けた石壁、そして倒れ伏す魔獣の骸。我らは立っていた。
『獣王』に仕える者-
そう名乗った獣人のゾルヴァーン。
以前森で戦闘した幹部のヴァルガスと同じくらい-
否。
それ以上の魔力を感じる者が我らの前にいる。
ゾルヴァーンの背後には狼種の魔獣が数十体、唸り声をあげてこちらを睨んでいる。
「ふむ…Sランクは不在か…。私が来るまでも無かったな。」
『…気をつけろ…あれは幹部クラスだ…』
「ほぅ…。随分と変わった姿の者がいるな。…まぁいい。魔獣ども、やれ。」
ゾルヴァーンの声に反応し、魔獣が一斉にこちらへ向かってくる。
「……来るぞ!」
ジークは剣を強く握り、魔獣の方に走り出す。
「ちょっとジーク!…もう!水弾魔法!」
マーシャは魔法でジークの援護をする。
「私達も行きましょう。」
「おう!」
「…街を守るために…。」
それに続き、Aランク冒険者のレイン、ジキル、バルドの三人もそれぞれ魔獣の方へ走り出す。
「さて、見せてもらおうか。」
ゾルヴァーンはその場を動かず、ただ戦況を見つめていた。
「…な、なぁ、アイツ…幹部なんだろ?」
「無理だろ…俺たちに勝てるわけないって…!」
『…ム?』
我の後ろで冒険者-
おそらくEランクからCランクまでの初心者達が話し始める。
「そうだよな…俺、まだ死にたくないし…」
「この街にはお世話になったけど…命はかけられないわ…」
『…待て、キサマら…!』
「……ごめんなさい!」
「足手まといになるだけだし…」
その場にいた冒険者が-
Cランク以下の冒険者達が皆、戦いを諦め、魔獣とは反対方向へといなくなっていく。
『……愚か者共め…』
「ダイオウ!そっちに行ったぞ!」
ジークの声が聞こえる。
魔獣がこちらへ向かっている。
我は魔獣を睨み、魔力に集中する。
『…火炎魔法…ッ!』
今は街を守ることを-
魔獣を、幹部を倒さねばならない。
一体、二体と、魔獣を次々に倒していく。
Aランク冒険者が三人いるだけでも、戦力が桁違いだった。
短時間で魔獣の討伐が終了する。
「はぁ…はぁ…あとは…」
ジークが、皆がゾルヴァーンに視線を向ける。
「…ふむ。魔獣相手ではあまりデータが取れないな。良いだろう、この私が相手をしてやる。」
「…皆さん、一斉に…」
レインの言葉が言い終わる前に、一つの影が飛び込んでくる。
飛び込んできたのはゾルヴァーン-
鋭利な爪が、レインらAランク冒険者達に向けられていた。
「「「…ッ!?」」」
三人は即座に反応し攻撃を防いだが-
「…ふむ。…獣族闘法〈三日月〉!」
蹴りが、半円を描くように繰り出される。
「ぐッ!?」
レイン達が蹴り飛ばされ、城門に叩きつけられる。
「皆!」
叫んだジークに向けて、ゾルヴァーンは即座に攻撃を繰り出す。
「貴様は弱そうだな。」
技ではなく、ただの突き-
ジークは剣で受ける。
「重い…ッ!」
『火炎魔法!』
「水弾魔法!」
火と水の魔法が、ゾルヴァーンに当たる-
しかし、全くダメージが入っていないように見える。
ゾルヴァーンはジークを蹴りで突き飛ばす。
「ぐぁッ!」
「ジーク!」
「…大丈夫だ!」
『キサマの目的は…この街リューグラードを潰すことか…?』
「魔獣”もどき”が私に話しかけるとはな。まぁいい。教えてやろう。私の目的は冒険者の力量測定だ。」
「測定だと……?」
ジークが剣を構える。
マーシャは息を整え、杖を握り直した。
「ここで冒険者の力量を測り、王都を落とすためにな。まぁ…Sランク冒険者がいないのであれば、今のうちにこの街を潰しておくとしよう。」
言い終えた途端にジークに向かい踏み込む。
ゾルヴァーンの踏み込みは、常識を逸していた。
一歩で距離を詰め、振るわれた爪が、空気ごと裂く。
「くっ……!」
ジークが受け止めるも、衝撃に再び弾き飛ばされる。
「この!水弾魔法」
マーシャの魔法が直撃するが、ほとんど効果がない。
「甘いな。」
ゾルヴァーンの一撃がマーシャを吹き飛ばす。
「ぐぅッ!」
地面を転がる彼女を庇うように、咄嗟に我は前に出た。
「ほう?魔獣もどきが冒険者の前に出るか。」
『魔獣もどきではないわ!…獄炎魔法!!』
強く、大きな炎をイメージし、放つ。
だが、ゾルヴァーンは余裕をもって受け流し、反撃の一撃でダイオウを地面に叩き伏せた。
戦闘が始まって数分。
三人はすでに満身創痍だった。
「ここまでか。」
ゾルヴァーンは、爪を構え、トドメを刺そうとする。
その瞬間――
「させるかっ!」
鋭い斬撃が、ゾルヴァーンの腕を弾いた。
「すまない!少し気を失っていたようだ…!」
庇ったのはAランク冒険者のジキルとバルドだった。
二人は即座に連携を組み、ゾルヴァーンと対峙する。
「ほう……まだ出てくるか。」
ゾルヴァーンの背後に、レインが飛び込む。
「仕留めます…ッ!」
ここから、戦況は一変した。
三人での連携攻撃。
短剣、槍、大剣-
ゾルヴァーンは後退しながらも、確実に全てを捌いていく。
「互角……いや、まだ足りんようだな。…ん?」
三人の武器とはまた違う剣がゾルヴァーンに斬り掛かる。
「俺も忘れるなよ!」
ジークである。
「…貫いて…貫いて…!水槍魔法!」
マーシャが、自身の使える魔法の中で、最も攻撃に特化した魔法を放つ。
「……!」
ゾルヴァーンの右肩に、傷をつける。
「ほう……!」
『今ある魔力全て使ってでも…!』
我はゾルヴァーンを倒すために、魔力を全て、一点に集中させる。
『………フゥ…出し惜しみはしない…喰らうがいい…深炎魔法!!』
「…!?ぐぁ!」
放たれた炎は、ゾルヴァーンを包み込む。
「くっ…獣族闘法〈嵐舞〉!」
回転を加えた動きで、炎がかき消される
冒険者たちを一瞥し、ゾルヴァーンは小さく笑う。
「――時間か。」
その言葉と共に、周囲の魔力が霧散する。
「今日のところは、ここまでだ。」
「逃げる気か!」
「…測定は終わった。」
ゾルヴァーンは背を向け、転移の魔法陣を展開する。
「次があれば、王都だろうな。」
光と共に、ゾルヴァーンの姿は消えた。
戦いが終わり、街には静寂が戻る。
--------------------
後日、冒険者ギルドにて。
「今回の戦闘評価により――。」
受付嬢が告げる。
「ダイオウさん、ジークさん、マーシャさん。三名を特別昇格によりCランクとします。」
三人は思わず顔を見合わせた。
「…特別昇格…ですか?」
「でも…私は、あの幹部を倒せなかったわ…。」
「…勝ち負けではなく、戦うことに意味があったのです。」
ジークとマーシャの言葉に返答したのは、レインであった。
「今回の幹部襲撃ですが、他の冒険者達は『勝てないから』と戦線離脱しました。が、あなた方は違った。」
レインは我らと目を合わせながら言う。
「私達Aランク三人だけでは、恐らく街は崩壊していました。これは、誇っていいことだと思いますよ。」
『……なるほど…』
「それなら…いいんですけど…。」
「…皆さんは、王都に行かれるのですか?」
「えぇ。アイツ、次は王都って言ってましたから。」
「…あまり行きたくは無いけどね。」
ジークの言葉に、マーシャは誰にも聞こえないような声で呟く。
『…もっと強くならなくてはな。』
「…そうですね。皆さんなら、きっと大丈夫です。…どうか、ご無事で。」
冒険者ギルドを出て、我らは王都に向かう準備を始める。
「王都襲撃……か。」
ジークが呟く。
マーシャは、強く拳を握った。
こうして三人は、新たな舞台へ――
王都アルカディアへと向かうことになる。




