第十話「魔獣」
夕焼けに染まる街道を、三人は全力で駆けていた。
「……間に合ってくれ……!」
ジークの息は荒い。
「サイレンが止まらない……嫌な予感しかしないわ……」
マーシャが歯噛みする。
『…レインは、既に街に入っているはずだ。』
我の言葉に、二人は無言で頷いた。
やがて――
リューグラードの外壁が視界に入る。
だが、その光景に、三人の足が一瞬止まった。
「…魔獣……」
マーシャが、呟く。
城門付近では、魔獣が押し寄せている。
冒険者たちが必死に迎撃していた。
魔獣の来た方向には、さらなる大群が向かってきている。
「なんだよあの魔獣の数……多すぎる……!」
魔獣と交戦する城門前-
その最前線――
複数の冒険者に指示を飛ばしながら、戦っている女性がいた。
「左から来ます!三体!」
「前衛、下がりすぎです。陣形を崩さないで!」
短く、的確な指示。
黒く短い髪。
無表情なジト目。
レイン・フェルド。
先に街に戻った彼女は戦闘に参加していた。
しかし、彼女は一人ではなかった。
Aランクと思しき、レインと同じよう指示を出している冒険者二人、
その指示を受け、剣や杖を構える剣士と魔法使いが複数人、
さらに後方には弓兵と回復役。
即席ながら、明確な防衛線。
「……今です!」
レインの合図で、前衛が一斉に踏み込む。
前衛の冒険者達が剣と魔法で魔獣を撃退し、
後衛の弓兵や魔法使いが援護する。
対処しきれない魔獣はレインや二人のAランク冒険者が仕留める。
無駄のない動き。
「次、右です。」
「了解!」
「回復します!一度下がって!」
連携が、機能している。
『……指揮官役もこなしているか。』
ようやく城門前までたどり着く。
「レインさん!!」
ジークの声が、戦場に響いた。
一瞬だけ、レインの視線がこちらを向く。
「……皆さん。状況は-」
表情は変わらない。
だが――
ほんのわずか、安堵の色があった。
「見れば分かります。魔獣の襲撃、ですね。」
マーシャがレインの言葉を遮る。
「襲われてるのはこの門だけですか?」
「えぇ。確認したところこの門だけのようです。押されていますが、まだ防げます。」
レインは短く答え、再び前を見る。
「皆さんの力もお借りしたいのです。」
「もちろんです!」
レインの言葉にジークが剣を構えながら答える。
「また来たぞ!さっきよりも数が多い!」
「十五…二十…三十体!?」
「!?…見ろ!あれ…」
冒険者の一人が指を指し、その方向に皆の視線が移る。
「…!陣形を組んでるのか!?三方向に別れたぞ!」
「普通の魔獣よりも賢いのか!?」
「落ち着いてください。…編成を三つに分けましょう。」
「三つって…」
「Sランク冒険者は不在ですが、幸いにもここにはAランク冒険者が私を含めて三人います。」
「…なるほどな。各編成に一人Aランクを入れるってことか?」
レインの提案に、Aランク冒険者の男が問いかける。
「えぇ。中央の魔獣は私のパーティーで引き受けます。残りの左右の魔獣は任せました。」
「…わかった。それで行こう。」
即席で三つのパーティーが完成する。
我らもパーティーに加わる。
組み分けられたのは、Aランク冒険者の男-
ジキルが指揮するパーティーだ。
「…その、ソイツは魔獣…じゃないよな?」
ジキルが我を指さしながら問う。
『違うわ!…いや、違くは…ないのか…』
「話は後でしなさい!来たわよ!」
マーシャが声を上げる。
魔獣が、十数体。
咆哮をあげて襲いかかってくる。
「来たな!」
ジークが剣を抜き構える。
「よし、行くぞ!剣士は前に出て応戦、援護は任せたぞ!」
ジキルが指示を出しながら魔獣の方に踏み込む。
それに続いてジークや他の冒険者が走り出す。
「水弾魔法!」
後方からマーシャや弓兵が援護する。
『我も…』
集中、イメージする。
イズナに教わった時の感覚-
火-
魔獣を包み込むような大きさ-
魔獣を仕留めるような威力を--
『…火炎魔法!』
放つ。
放たれた炎は魔獣の群れの一体に直撃し、燃やし尽くした。
『よし…感覚を掴んできたぞ…』
「…やるじゃない。」
マーシャからの言葉に心が熱くなる。
『敵数が多い。魔力切れには気をつけろ。』
「アンタもね。」
「クッ!こいつ!硬い!」
ジークの振るった剣が一撃では通らない。
攻撃が通らず、体制を崩す。
そこに、魔獣が三体、ジークを囲むように襲いかかる。
「ヤバっ…!」
『ジーク!』
瞬間、ジキルがジークの視界に飛び込んできた。
「雷撃魔法!」
雷魔法で魔獣二体を撃墜させ、残りの一体を切り伏せる。
「ありがとうございます!助かりました!」
「おう!終わるまで気抜くなよ!」
『…流石、Aランクというところか…』
Aランク冒険者-
思っていたよりも、普通の冒険者とは格が違うのであろう。
それよりも規格外なSランクとは、恐ろしい存在である。
「残り三体!一気に攻めるぞ!」
ジキルは魔獣と一気に距離を詰める。
魔獣が即座に三方向にわかれるが、ジキルがその内の一体を斬り、仕留める。
「二体!そちらに行ったぞ!」
「了解!」
ジークが魔獣の方に回り込み、斬り掛かる。
魔獣はその場から急に飛び跳ね、牙を向け襲いかかる。
「!?(急に跳んだ!このまま斬るか?…いや…)」
ジークは斬り掛かるのを中断し、剣で魔獣の牙の攻撃を受け流す。
体制を崩した魔獣に向かい、剣を振り下ろす。
「…!よし、仕留めた!」
「やるじゃねぇか!」
残り一体
「来た!水弾魔法!」
マーシャが魔法を放つが、魔獣は躱す。
「速い!近づかれたらまずいわ!」
『ム…マーシャ、我が魔獣の足元を狙う!回避先に攻撃を当てろ!』
「難しいこと言うわね…。やってみるわ!」
魔獣がどんどん近づいてくる。
我は再び魔法に集中する。
『…フゥ…火炎魔法!』
魔獣に当てるのではなく、足元を狙う。
狙い通りに足元に炎が放たれ、魔獣はそれを回避する。
回避し、着地した地点に-
「そこ!水弾魔法」
マーシャの魔法が直撃する。
見事に魔獣を撃ち抜き、最後の一体を仕留める。
『やるではないか。』
「アンタの方こそ、やるじゃない。」
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三つに別れたパーティーは、城門前で合流をした。
「良かった。みんな無事ですね。」
ジークが安堵の息を漏らす。
「えぇ。ただ、この魔獣…異常に統率されていました。本来であれば、何も考えずに特攻してくる魔獣ばかりですが…」
『…まさか…ただの魔獣ではなく…』
我が呟いた、その時だった。
グオォォォォォォォ……!
空気を震わせる、異様な咆哮。
「……なに……?」
冒険者たちが、息を呑む。
魔獣の来た方向-
瓦礫を踏み砕きながら、
巨大な人影が現れた。
獣の角、牙、黒褐色の皮膚。
狼の獣人だろうか。
圧倒的な威圧感。
レインが、即座に判断する。
「……全員、戦闘態勢を。」
「…あれ…何よ……」
マーシャが、呟く。
『…魔獣を指揮していた者…か…?』
この戦いの“元凶”が。
巨躯が、街を見下ろす。
低く、重い声が響いた。
「――なるほど。」
「これが、冒険者の戦力か。」
獣の眼が、冒険者たちを見渡す。
「…我が名は、ゾルヴァーン。」
我が王…『獣王』に仕える者である。」
口角が、歪む。
「今日は……貴様らの価値を測りに来た。」
夜が、街を包み始める。
ゾルヴァーンと名乗った者の背後には、再び魔獣が現れている。
戦いは――
ここからが、本番だった。




