没後に評価されるタイプの不老不死スコッパー
この小説が私の生きている内に評価される事を願って。
※この作品はハーメルン、カクヨムでも投稿されています。
私はスコッパーである。
その言葉はかつて、特定の集団を指すものだったが、彼らは既にこの世を去ってしまった。
今となっては、唯一の残党である私を示す渾名に成り果てている。
「よう、スコッパー。相変わらず機械みたいな無表情だねぇ」
「新しい傭兵ギルドが設立されたと聞きました。詳しい情報を」
「社交辞令もなしかい。まったく、何が楽しくて生きてんだか。ほらよ、その情報なら500PVだ」
「オンライン決済で良いですか?」
「当たり前だろうが。今時、現金なんて渡されても困るっての。こんな時代じゃ、企業が管理するポイント以外に価値の保証なんてあったもんじゃねぇ」
改めて、私はスコッパーである。
スコッパーとは、星の数ほどいる傭兵の中から、埋もれた逸材を発掘する存在だ。
最初は少数の趣味人の寄せ集めだったらしい。それが段々と規模を拡大し、いつしか有名な集団になっていった。
スコッパーの台頭により、駆け出しの無名傭兵にも成り上がるチャンスが生まれ、業界の新陳代謝を活性化させていたという。
まあ、スコッパー仲間の1人──陽気でお喋りな男が酒の席で語っていた事なので、何処まで本当の話なのかは分からない。
「毎度あり、っと。データ送ったぜ」
「……。なるほど。ランキング20163位、ガバルディグク。この男性は見込みがありそうですね。一度、依頼してみましょうか」
私が端末に表示された名前に印を付けると、情報屋は深い溜め息を吐く。
「……傭兵リストを下から順に読んでいくのはアンタくらいだよ、スコッパー」
「仕方ないでしょう。細かい絞り込みをかけられないリストの方に問題があります」
「そりゃ、そんな無駄な機能を付ける必要ねぇからな。ランキング上位がはっきり分かれば、後は賑やかしみてぇなもんだ」
「……昔は、あったんですよ。企業が世界を支配する前までは」
「昔ぃ?企業が支配する前って……。ははっ、おいおい、アンタもジョークなんて言うんだな。あの時代の人間は絶滅しただろうに」
世界は変わった。大気汚染によって、全ての人類が死に絶えたのである。
当然ながら、スコッパー仲間達も例外ではない。私は全員の亡骸を確認した。
しかし、人間の歴史は終わらない。旧人類の残した違法研究所の一つから、偶発的に新たな人類が生まれたのだ。
彼らは汚染された環境に適応し、旧人類の文明を土台にする事で、瞬く間に同等以上の発展を遂げた。
「ま、俺も企業のやり口に納得いかねぇ部分はあるけどよ。旧人類みたいな馬鹿な滅び方しねぇ為にゃ、必要な管理体制だろ?」
「そうですね。私も公平性が何よりも優先されるべきだとは思っていません」
いくつかの巨大企業があらゆる価値基準を提示し、他はそれに従うだけの世界。
そんな世界で、私は今日も淡々と人材発掘を続けている。
この行為に意味があるのかは分からない。不遇な逸材を救っているんだ、なんて傲慢な考えを抱けるほど感情豊かでもない。
「私はただ、日の目を見ずに終わっていく人間達を放って置けないだけです。だって、それは少し……寂しいでしょう?」
「ご立派な事で。それが、アンタの役割ってかい?」
「いいえ、趣味です」
そこだけは、はっきりと断言できる。私を仲間と呼んでくれた皆に誓って。
「──私は、スコッパーですから」
旧人類が最後に生み出した高性能アンドロイド──ラリギャグ77。それが私の本当の名である。
私は機械だ。老いる事も死ぬ事もない。
ただ変わり映えのしない日々を送りながら、耐用限界によって壊れる時を待つだけだ。
私の頭部の記録装置には、これまで見聞きしてきた全ての体験が保存されている。
私の生涯に意味があったのかどうかは、それを見たどこかの誰かが評価してくれるだろう。