生還
あまり知られていないがオーガはその圧倒的な物理ダメージと魔術を使いこなす凶悪な魔物である。
並みの冒険者では傷をつけるのも難しい。
それゆえに、
「よくもダメージを与えてくれたな・・・殺す」
オーガはプライドを大きく傷つけられていた。
身体に帯びる魔力から見るからに怒っているのがわかる。
しかしその圧倒的な巨躯を前にしても、どこかカイトは勝てるような気がしてしまう。
それだけ、この剣から力を感じるのだ。
それに、
「どうせ逃げられないしね」と自分に戦う言い訳をしないと臆病な自分に負けてしまいそうな気がした。
「焼き尽くせ・・・!ヤクタ・・・!」
先に仕掛けたのはオーガだった。
大した詠唱もなく特大の火球を放つ。
こんなものを食らえばあとかともなく蒸発するだろう。
こんな時、あの時のコバヤシさんなら・・・。
ドラゴン戦の時、単騎で戦ったコバヤシさんは地形を利用しながら立ち回っていた。
遺跡の柱を盾にして不意をつければ・・・!
カイトは柱に身を隠しながら攻撃の隙を狙う。
・・・!
「雑魚が!このオーガを相手に勝てると思うな!」
「ここだ!」
聖剣が的確にオーガの右手・・・利き手を叩き切った。
「グオオオオオ!」
オーガは苦悶し残った左手を振り回す。
「僕もやれることをやらなきゃね!・・・ノーム、土の精霊よ。力を貸してくれ・・・!」
チャモロは硬化された岩の塊をオーガの残った目に打ち出す。
「貴様ら・・・!」
オーガの視界は少しだが完全に失われた。チャンスはここしかない。
「ここで倒す!」
エヴァが与えてくれた身体強化もそろそろ時間切れだ。
効果がなくなる前にカイトはその一撃を加えるため、全力で走る。
何故だ。
オーガは視界が奪われ致命傷を受けていた。
_____こんな勇者でもないただの冒険者に・・・!
いくら何でもこのダメージは再生能力を大きく超えている。
まさかこいつはヘカトンケイル様の危惧していた異世界転生者・・・!
「うおおおお!」
カイトは最後の力を振り絞り、オーガの首を落とした。
パーティの連携でなんとか倒すことが出来た。
カイトはその場でへたり込む。
こんな命がけの戦闘は正直経験したことはない。
_____なんだか、勇者みたいだ。と思った。