古代の戦争跡
静けさがたたずむその遺跡は、かつての神代の戦争の傷跡が残っている。
「灯せ」とチャモロさんが杖の先に光を照らすと、
「どうにもここは不気味で変わらないなあ・・・」
そう口にする。
壁には過去の壁画が描かれていて、それだけでもカイトはドキドキしていた。
初めてこの世界に来た時の感覚が思い出される気がした。
こういう雰囲気の場所は大抵、大物の魔物がいるのが定石だ。
「ふうん・・・この絵、あのお方の雰囲気がするわね」
「あのお方・・・?」
「伝説とされる邪神、ヘカトンケイル様よ。あったことはないけど・・・伝説の存在よ」
あのエヴァが敬語を使ったことに驚いた。
余程有名な魔物なんだろうか。
壁画にはたくさんの首がついた魔物の絵が描きこまれていた。
それに相対するように勇者のような人も描かれている。
チャモロさんがふと、こんなことを口にした。
「この世界はね、世界樹というものから出来ていると言われているんだ。その世界樹の管理をしているのが、神だと言われているんだよ」
「知ってます・・・転生したときに不思議な場所にいましたから」
「それはすごいね!今度話してくれると嬉しいな!」
パーティはらせん状の階段を下って行く、今回はチャモロさんが遺跡のマッピングを行っていた。
2度目に来ただけありダンジョンには順調に潜っていく。
ここに入ってから壁一面に壁画が描かれている。
「あー疲れたわね。どこまで潜るのよ」
エヴァは文句を言わずにここまで来ていたのだが、そろそろ限界のようだ。
しかたない、とチャモロは腰を下ろした。
「休憩しよう」
「はい」
外とは違い、密閉された静寂が支配している。
じっとしているとそれだけで何かが襲ってくるような感覚がするくらいだ。
この奥にそんな化け物がいるとしたら・・・。
「怖いかい?カイト君」
「二人は怖くないの?」
チャモロさんは「ははっ」と笑い。
エヴァは何とも言えない顔をする。
「その時は二人を裏切るかもしれないわね」
冗談にしては笑えないけど・・・。
「エヴァは魔族だもんね。変な質問してゴメン」
「殊勝ね」
しばしの休憩を終えると長い螺旋階段を下って行く。
その間、不思議なくらいに魔物の襲撃はなかった。
ただ。
「二人とも」
チャモロさんが口に手を当て静かに話しかけてきた。
「下に強い魔力の気配がする。気を付けて」
「そうね・・・まあ、何とかなるともうけど」
魔力の気配と言うかそういうのは分からないが、大物がいるのかもしれない。
腰に着いた剣を触り、落ち着かせる。
奥まった暗闇が扉のない通路の先に続いている。
その先に。
「貴様ら・・・!ヘカトンケイル様の重鎮の一人、このオーガになに用か?」
5メートルくらいの圧倒的な巨躯をもつ魔物が姿を現した。
「これは・・・!やばいね。逃げられるのかも怪しいし・・・」
チャモロさんは不安そうにつぶやいた。
奥から姿を現したのはオーガだけではない。
魔獣も何匹か従わせている。
どう考えても・・・。
「貴様・・・サキュバスだな。久々にいい女だ」
「ふうん・・・私がオーガみたいな脳金に体を譲ると思う?」
「脳金か・・・!言ってくれるな。たかがサキュバスの分際で・・・!」
エヴァは意外な態度だった。魔物って一枚岩のイメージを持っていたからだ。
仲間意識とかは種族は別に考えるのだろうか。
「いいわ・・・!任せなさい・・・!クイーンサキュバスの力・・・見せてあげる!」
彼女は全身に魔力を身にまとう。
見ればわかるくらい本気になったのがわかる。
「僕らは雑魚を仕留めよう・・・!カイト!行くよ!」