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それは、ある日突然に

ホルマード家の家に戻ると、ぼろぼろの我が家には珍しい馬車が停まっていた。

 

 |(あれは、軍部の……)

 

 そこまで考えて、家に来ている人物が想像できると、シェイラは慌てて走り出した。

 

「叔父様!」

 

 客間に向かうと、快活に笑う叔父テガンと弟カミーユの姿があった。

 

「おぉ、シェイラ。待っていたぞ」

「今日は軍は訓練の日では? 突然、どうされたのです?」

「なんだ、私は暇じゃないとお前達に会いに来ては行けないのか?」

「そうじゃないわ。叔父様が突然いらっしゃるなんて、何か大変なことが起きたのかと……。はっ! まさか税の納める額があがるとか……。どうしましょう。まだ塀の修繕も終わっていないのに」

「姉上。違いますから。まずは落ち着いて席につかれたらどうですか?」

 

 カミーユはそう言って、唯一の側近アウルにお茶を頼む。促されるままにシェイラが席につくと、カミーユが書状を差し出した。


「これは?」

「ホルマード家宛に来た書状です。ですが、姉上宛に来たと言っても過言ではないでしょう」

「私に?」

「王家から、姉上に結婚の申し込みがあったのです」

「……は?」

「おい、カミーユ。物事順序ってものがあるんだぞ。何も本題から話さなくても……あぁ、見てみろ。シェイラが固まってしまっただろう」

 

 シェイラにはこのときすでに、テガンの声は聞こえていなかった。届いていなかった、が正しいかもしれない。

 

「失礼いたします」

 

 アウルが持ってきてくれたのは、ホルマード家で作った蜂蜜水だった。歩いて帰ってきたシェイラへのアウルなりの気遣いだろう。それを勢い良く飲み干すと、シェイラは改めて書状を目にした。

 

「お相手はもちろん、国王陛下です。国王陛下は御歳二十八歳。疫病からかれこれ七年経ち、結婚相手を見つけようにも釣り合う年頃の方々は皆さん結婚されていて……というわけで、姉上にお声がかかった次第です」

 

 その書状は国王陛下から直筆でカミーユが話しただいたいの内容が書かれていた。


「陛下の許嫁となられた御方は、私の友人だった方でした。疫病で亡くならなければ、彼の横には彼女が……とてもお似合いだったと記憶しています」


 シェイラは亡き友人を思い出さずにはいられなかった。笑顔の素敵な友人エイミー。本が大好きで、いつも互いに好きな本を語り合っていた学園時代の親友。

 

「……陛下はそのことをご存知のはず。私だって、何も思わないわけじゃありません。ただ、王家はかなり焦っていらっしゃるのですね。一ヶ月後の祝賀会がお披露目で……これも陛下直筆の書状だなんて」

「諸外国がまた動きを見せている。我が国としても、疫病から復興した姿をそろそろ対外的に示さなくてはいけない時期ときた」

 

 テガンが言う。

 いつまでも復興に時間をかけていると思われれば、諸外国に付け入る隙を与えることになる。王家が盤石であると示さなければならないのだろう。

 この結婚は断ることができない。直筆できた以上、王命に等しいものなのだ。

 もっと若い歳ならば、見初められたと貴族の娘らしく喜んだのだろうか。


『ホルマード家は王家に尽くす……』

 

 俯いていたシェイラの脳裏に、父の言葉が蘇る。

 

「……わかりました。カミーユ、叔父様。陛下にはお受けしますとお伝えください。……少し、疲れたみたいです。私、休ませていただきますわね」

 

 客間から出て、シェイラは一つため息をついた。顔をあげると、恐らく話を聞いていたのであろう母ハサキの姿があった。

 

「お母様」

 

 シェイラがそう言うと、ハサキは我が子を思い切り抱きしめて涙した。

 

「……ごめんなさい、シェイラ。貴方にまた重荷を背負わせる私達をどうか許して」

 

 医者として生きると決めた夢は潰えた。

 簡単に人の人生は変わっていく。何も疫病だけが……天変地異だけが理由じゃなかった。

 この胸にあるのは虚しさだ。

 選ばれた理由が歳が釣り合うかどうかという、こちらの意見などまるで聞く気のないような文言。せめて、兼ねてから気にかけていたなどと嘘をつけば良いものを。今更取り繕うことをしない誠実さを見せたかったのかもしれないけれど、少なくとも第一印象は最悪ですわ……陛下。

 シェイラは静かに涙をこぼした。

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