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四角い家

「それで、地震があったと付近の住民が証言した時刻は?」

「今朝の午前六時ごろだと聴いてます、いったい、何でしょうね?」

 二人の刑事は、切り立ったような崖の麓にある小さな家のなかにいた。家のなかの居間では、中年の男が、後頭部を割られて、血の海の中で、絶命していた。凶器は部屋のどこにも、なかったが、部屋中に血が飛び散っていた。惨劇である。

「家の鍵は?」

「玄関の鍵も、小さな窓も、すべて内側から、ロックしてありました。この事件、吉山さんのお得意な密室殺人ですよ、‥‥‥‥‥‥、どうやって、殺人犯は、この部屋から鍵のかかったまま、抜け出したのか?」

「ふうむ、それで、被害者の身元は?」

「山野浩二、46歳、近くのコンビニのファミリーメートの店長で勤務してます。家族もいないようで、悠々自適の生活だったようですね。それにしても、殺人の動機です。彼には、敵もいませんし、財産があるわけでもない。なぜ、殺されたんでしょう?」

「謎だらけの事件だな。ちょっと、表の空気でも吸うか?」

 吉山刑事と平井刑事の二人は、表に出て、すぐそばにある、高い崖を見上げた。

「この崖の麓じゃ、落石とか、山崩れの危険性もあるな、土地も安かったんだろう」

「だから、安給料の山野にも買えたんでしょうね。で、これから、どうします?」

「一度、気分転換に崖を登ってみるか?きっと、眺めが良いだろう」

 二人は、その崖の上まで来た。辺りには、建設中の住宅が所狭しと並んでいる。たぶん、新興住宅街になるのだろう。近くには、建設用の大型トラックや大型クレーン車があった。でも、確かに景色は良い。辺りの緑の平野が一望できた。

 二人が、崖からの景色に見とれていると、背後から、ひとりの男が、近づいてきた。作業服を着て、坊主頭の若い男だ。

「良い眺めでしょう?僕も、住宅工事の休憩時間には、ここから、ストレス解消に、景色を眺めて、大声で叫んでやるんですよ。うるさいですかね?」

「あなたは?」

「僕は、河野って言います。工事夫っていっても、まだ、駆け出しですがね、そうそう、最近、幸運に恵まれましてね、宝くじで10億円当てちゃったんですよ。もう、今の仕事、止めて事業起こそうかなって考えてるんです。どうです、凄いでしょ」

すると、吉山刑事は、コートを脱いで、肩にかけ、いがぐり頭をボリボリ掻きながら、

「そいつはラッキーでしたな。あんたは運が良いようだ。それで、今朝、この崖の麓の家で、殺人事件があったんですがね、何かご存じのこと、ありませんかな?」

「ああ、警察の方でしたか?そうですね、僕たち、今、ここへ来たばかりですから、特に気づいたことも、ありませんがね、あの家の主人、近所の住人とよく口論してたって聞きましたがね、あっ、これ、人に言わないで下さいね。ああ、そろそろ、仕事だ、それじゃあ、行ってきます、すいません」

「ねえ、ねえ、吉山さん」

と、若い平井刑事が、背広の埃を払いながら、

「密室殺人の謎、解けましたか?僕には、見当もつかなくて‥‥‥‥‥」

「はっはっは、今回の事件は簡単だよ。少し、考えれば分かるさ、それじゃあ、解説しようか?」


 吉山刑事は、肩にかけたコートを、両手に握り直して、

「犯人は、工事夫の河野だ。おそらく、当てたって言う10億円の宝くじは、被害者の山野のものだろう。それを河野が嗅ぎ付けて、盗み、口封じに殺害したんだ。じゃあ、どうやって、殺したかって?河野に騙されそうだったよ。付近の住民と口論してたなんてね。そもそも、あの殺人のあった四角い家は、崖の上に立ってたんだよね。それで、被害者は、内側から鍵をかけて眠っていた。そして、今朝、犯人の河野は、大型のクレーン車を使って、四角い家を持ち上げて、家ごと、崖の上から落とした。四角い家は、サイコロみたいに崖を転がって、無事に麓で、まともな向きで止まったが、なかにいた被害者は、崖を転がった勢いで、何度も頭を居間の壁に打ち付けて撲殺されたわけだ。部屋は血まみれな筈さ。その時の落ちた振動で、付近の住民が地震騒ぎを起こしたって寸法だな。それにしても、人間の欲は、恐ろしいものだよね。本当に恐れ入るよ」

 そう云い終えると、吉山刑事は、ポケットから、お気に入りの薄荷菓子の袋を出して、飴を舐め出した。今日は、飴が何だか、ほろ苦いような気がした‥‥‥‥‥‥‥‥。

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