三色団子布団幽霊博士
「柳谷雄介! キミを助手に任命する!! さぁ、幽霊を捕獲に行こうじゃないか!!」
「病院行け」
昼食後に眠くて頭がボーッとしている昼下がりの教室。
クラスメートの幽々亭霊子が、びしりと指を突き付けてきた。
まだ散切高校に入ってそうは経っていないのだが、コイツの名前は間違えようがない。
この地方は、明治維新に伴い、誰もが名字を名乗れるようになったが、人々はどうつけてよいかわからず困り果て、学はあるが変わり者の和尚につけてもらったという古記録がある。
それを由来とする変わった名字が多いことで有名だ。
しかし、幽々亭霊子という名前が変わっているから覚えているんじゃない。
端的に言えば変わり者だからだ。それもド級の。
髪を赤と青と黄に染め分けているが、不良とかそういうチャチな次元ではない。
両サイドのお団子ヘアーは、もはや三色団子だ。色の混ざり方的には歯磨き粉が近いかもしれないが。
それよりヤバそうなのは制服の上に布団を着込んでいることだ。
着る布団とかそういうおもしろグッズではない。
本物の掛け布団をケープのようにかぶって着ているのだ。ちゃんと着やすいように、中にゴムバンドに手を通せるような改造まで施している。小柄なので半分埋まっているとも言える。
「病院? ボクは健康そのものだぞ!」
「その校則違反の信号機ヘアーの中に詰まってるだろう部位のことなんだが」
もはやボクっ子とかその程度の一人称は大した問題ではない。
この見た目のアヴァンギャルドさからすればそれくらい言いそうだし。
「信号機ではない! それは光の三原色で黄色ではなく緑だろう! よく見ないか! マゼンタにシアンにイエロー! 色の三原色だ! つまりこれは黒髪だ! 校則違反ではない! 信号機だと白髪になってしまうだろうが!!」
「どんな理屈だよ!? 一休さんかお前は!!」
「頓智ではない! エビデンスだ!」
「どこが――」
「あの、漫才の練習なら空き教室でやってもらえますか?」
割って入ったのは、古田門那珂、委員長だった。
彼女も特徴的なので名前を憶えている。
こちらは満場一致で黒と認定できる黒髪を腰の先くらいまで伸ばし、また、長身から見せるたおやかな立ち振る舞いは、洋風であるセーラー服を着ていながらどこか和の印象を与える。
メガネの下には理知的な光があり、三原色バカとは知性の方向性の違いをはっきり感じさせた。
その目が俺を射貫く。少しドキリとした。
「ええと、漫才はしてないんだが……」
「教室ではお静かに。午後からの予習をしている人もいるんですよ」
言われて気づいたが、確かに教室内ではノートに書きこんだりしている生徒もいた。
騒がしいタイプの生徒が外に繰り出している分、静かだった。
「あー、すまん、申し訳ない」
「いえ、楽しくおしゃべりすること自体は問題ありません。ボリュームに気を付けて頂ければ」
そう言って、くるりと後ろを向いた委員長だが、パンツがスカートを巻き込んでおり――つまりパンツが丸出しになっていた。
気持ちいいほどの白だった。
「委員長! スカートスカート!」
「はい?」
委員長は真面目なのに、いつもこういうとこガードが緩いんだ。自転車通学でスカートの裾を踏まずに、パラシュートかというくらいパンツ全開になって走ってたりとか。
男子がそのせいでどれだけ悶々としてることか。
「めくれてる! 後ろ!」
「……」
委員長はスカートのめくれに気づき、素早く下におろす。
「教えてくれてありがとうございます」
軽く会釈して去って行く委員長。
「全く動じてない……」
「減るものではないからな。質量保存の法則と同じだ」
霊子も一切、動じていない。
なんなの? それが普通なの?
俺なんか、心臓バクバクなのに。
「……ツッコむとまた怒られそうだから、もういいか?」
「よくはないな。場所を変えるぞ」
反論するのも面倒なので、仕方なく成すがまま連れて行かれることにした。