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老夫婦は異世界でも一緒

作者: 我菓子



ふっといつもの時間に目が覚める

世が明ける少し前、私は布団ではなくベットから軽やかに起き上がった

ベット脇に置いてある大きな鏡を見ると、ここ数年でようやく見慣れた私の姿

細身でカモシカのように細い足に白い腕、髪色は薄い青と銀を混ぜたような色合いで、瞳は濃紺

昔の私とは比べものにならない位、違う。そうね、娘が持ってた金髪のお人形さんみたいだわ。

着ていた夜着を脱ぎ手早くベットの上に折りたたんで乗せ、押入れ、最近だとクローゼットって言うのよね。

クローゼットから、子供達が読んでいた絵本のお姫様が着ていたようなドレスがずらりと並ぶ中から汚れても大丈夫な亜麻色のドレスを選ぶ

手早く長い髪を纏めて夫から貰ったかんざしで留める

「さっ、朝ご飯作らなきゃ」

一階に降りて台所に立って手をパンパンと叩くとフワッと部屋に明かりが点く

魔法って言うのよね。凄いわ、とっても便利。


私の名前はエリーゼ・テシーク(22)

以前の名前を天月絵里。

夫はジュード・テシーク(21)

以前の名前を天月十蔵。

86歳で夫と嫁がせた娘2人を残し、先に死んだのだけれど、また輪廻が廻って1人の女としてこの地で生きていたら、2年前にここから離れた都会の元職場で偶然、また夫と再開した

「探したぞ、絵里」

「あらぁ?もしかして十蔵さん?」

「ん」

私は結婚前、都会の王都指定、王立研究所で働いていた。

生前から花や草木が大好きで、株分けだって得意だったから、好きだったことを仕事にしたいと思って、思い切って都会に出てこの植物育成課に勤め始めた矢先だった

研究所の中はとても広く、植物だけじゃなくて、機械、加工、水産、農業、魔法、他なんかがあって、さらに詳しく課が分かれているのでかなりの大所帯

そんな大所帯な研究所の第1大食堂で、偶然にも十蔵さんが私を見つけてくれた。

この世界は私の大好きなトマトが無いらしく悲しみに暮れていたら、なんと農業生産課の誰かがトマトの栽培に成功。

トマトのサラダが今日から食堂で初メニューと聴き、浮かれて第1大食堂に行った時だった

「お前は昔からトマトが好きだな」

十蔵さんのその怒ってるのか、困ってるのか、笑ってるのか分かりづらい表情、昔から変わらない

「大好き。この世界でトマトが無いのが1番ショックだったわ。トマトを生み出してくれた人にお礼を言いたい位!!」

「儂だ。」

「えっ?」

「儂が作った。…お前が居ないこの世界に、お前が好きだった物で溢れさせようとした結果だ」

「まぁ…」

死ぬ間際に見た夫とはかなりかけ離れた姿

黒髪は前と同じだけど、背丈が大分違う。昔は立つと顔も近かった気がするんだけど今はスラっとして、脚も長い。身長も頭一つ違うじゃないの

「でも、びっくりしたわぁ、十蔵さん英吉利イギリスの映画俳優さんみたい」

「そう言うお前も、昔とはえらい違いだ」

「ウフフ、この髪の色素敵でしょう?でも、どうして?どうして十蔵さんもここに居るの?」

「……お前が死んだ後、儂も一年後に老衰死した」

「えっ!!?嘘!」

私が目を丸くしていると、

「好子と晴海には、ちゃんと見届けて貰ってから死んだ。日本にもう後悔も無い。」

「好子と晴海…元気かしら」

「元気だろう。いつも通り」

「…そうね、いつも通り、ね。ねえ十蔵さん、どうして今の私が絵里ってわかったのかしら?」

普通分からないわよ?だって、この綺麗なお人形さんみたいな姿だもの。

「この世界で、簪を刺すのは、お前くらいだ。それに、この簪はお前の棺に儂が入れた物によく似てる」

「えっ?…あっ…」

スッと十蔵さんが私の簪を抜くと、サラリと私の髪の毛が解ける

「もう、十蔵さん昔っからなんだから。簪を抜くの止めて」

この世界に和服や簪の文化はない。

この簪もどきは、加工課の友達に頼んで作って貰った一点物だ

簪を取り戻そうとした私を引き寄せ、十蔵さんは私を抱き締めた

大食堂だもの、周りでキャーキャー悲鳴のような声が聴こえる

この状況は元お婆さんな私でも恥ずかしい。

「…お前に、もう一度会いたかった…絵里」

「十蔵、さん…ごめんなさい、先に逝ってしまって…」

「構わない。また、お前に会えたから。…絵里、また儂と結婚して欲しい」

「はい。喜んで。十蔵さん」

私が答えると、更に盛大な拍手喝采と女性の黄色い声や男性陣の嘆く声が大食堂にこだました


ーーその1年後に私達はこの世界でも結婚し、私は研究所を結婚退職、十蔵さんも同じく退職して2人で田舎でまた暮らそうかと話して居たら、十蔵さんの勤める農業生産課が十蔵さんを離したがらなかった

十蔵さん、退職土産にお米を栽培してたんですって。それがまた上手に栽培に成功しちゃうから、退職ではなく田舎に住んでも良いが、時折研究所に指導に来る臨時の先生みたいな役職に変わった。

まあ、十蔵さん元々土地持ちの農家だし。

お米、野菜、果物、何でも一通り手を出してたから。夏は大玉のスイカが沢山畑に出来てたなあ。

「儂が死んだ時に、好子と晴海が米と野菜の種を沢山入れてくれたからか、何故か朝起きると枕元に種が置いてあるんだ」

「あら凄い。じゃあいつか夏にスイカが出来るの楽しみにしているわ。」

「スイカは先週畑に植えて来た。お前が、好きだと思って…」

「ウフ、嬉しい」

私が笑うと十蔵さんはまたいつもの顔をする。

怒ってるのか、困ってるのか、笑ってるのか分かりづらい表情、私はそんな十蔵さんがやっぱり好きだと思った

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― 新着の感想 ―
[良い点] 見た目は若き西洋人ながら昔通りの付き合いをする老夫婦の姿にほっこりしました。 こういう異世界転生も面白いですね。
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