全て、事実でございますわ!
「ガブリエラ・ラウレンツ公爵令嬢、君との婚約を破棄させていただく!」
王立フローラ学院、その卒業式のパーティにて、この国の王子ーールドルフ・ディートハルトはその婚約者のガブリエラ・ラウレンツへ婚約の破棄を告げていた。
賑やかだった夜会の場はすぐに騒然とし、酒を飲んでいた者の酔いも覚めてしまっているようだ。
ルドルフの隣には男爵令嬢のリリー・バーデ、特別美しいとは言えないが、優しげな顔立ちにコロコロと変わる表情、天真爛漫な性格と言われる少女である。
対するガブリエラ・ラウレンツは、キュッと釣り上がったアイスブルーの瞳に整った顔立ち、美しい銀糸の髪を持つ、冷たい雰囲気の少女である。
だがそんな彼女も、婚約破棄を告げられて顔が青ざめてしまっていた。
当然だろう、ガブリエラはルドルフに恋をしているのだから。
そんな彼からの婚約破棄は、彼女にとって死刑宣告といっても良いくらいの悲しみと怒りを沸き起こした。
「なぜ、ですの? なぜ、私との婚約を破棄するんですの? その隣にいる方よりも、私の方が劣っていると言いたいんですの?! 誰よりも、そう誰よりも、貴方様に相応しくあれるようにと、努力、してきたというのに、なぜ、なんですの……」
ガブリエラは最初こそ大きな声で叫ぶように話していたが、だんだんと声が小さくなっていっている。
その釣り上がった氷のような瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。
それを見て、リリーは困惑した表情でこう言った。
「えっと、あの、ルドルフ様? いくら私のことをガブリエラ様が殺しかけたからって、婚約破棄だなんて非道いことなのでは……」
「……君は何故ここにいる? 早く誰かと踊ってきなさい。卒業パーティはもう二度と行われないのだから」
ほら、あっちへ、と誘導されてハテナを浮かべながらリリーは去っていく。
ガブリエラも、周囲の人々も、困惑しながらそれを見つめていた。
いち早く復帰した貴族の老人が口を開く。
「……あの少女は、ルドルフ王太子殿下のなんなのでしょうか?」
「ああ、ただの友人だ。特待生で平民だからか、虐められ易くてな。王子として、自分の国民は守らなくてはならないだろう?」
完璧な微笑みでこう返され、人々は納得する。
だが、ガブリエラは納得してはいなかった。
もしや私から庇うためにあの子を外野へ追いやったのでは、などということすら考え出していたガブリエラにとっては、そんなことは言い訳にしか聞こえなかったのだ。
「それでは、少し疲れたからな。私は城へと戻る、馬車を出してくれ」
ガブリエラを一瞥もせずにルドルフは帰ろうとする、その行為によってガブリエラの不信感は高まっていく。
私のことを見ないだなんて何か不都合なことがあるのかもしれない、そう考えてガブリエラはルドルフを引き止める。
「お待ちくださいませ、まだ私の質問への答えを頂いておりませんわ!」
「なぜ君との婚約を破棄したのか、だったか。それは、君の幸せのためだ」
「……私の、幸せ……?」
ルドルフが言った言葉が、ガブリエラは理解ができなかった。
彼女にとっての幸せとは、ルドルフと結婚し、愛し合うこと。
それと真逆のことをして、幸せのためだと曰うルドルフを訳がわからないという目でガブリエラは見つめる。
「君の幸せが、私の幸せだ。そのためなら、なんだってして見せよう」
ーー君が愛しているのは、僕ではないんだろう?
一瞬、時間が止まったようにガブリエラは感じた。
身に覚えのない罪を、突然着せられたような気持ち、いやそのままだろうか。
口がパクパクと金魚のようになってしまうガブリエラを見て、やはりそうだったのか、とでも言うかのような顔をするルドルフ。
衝撃から解けて、ガブリエラはすぐに口を開く。
「ふ、ふざけないでくださいませ! 私が好きなのは、生涯ルドルフ様唯1人だけでしてよ!」
「……もう、僕のために偽りを述べなくても良いんだ。本当の気持ちに従ってくれ……!」
君を縛り付けるのは苦しい、そう言ったルドルフを見て、ガブリエラは勘繰ってしまう。
悪い方へ、悪い方へと思考が転がり落ちていく。
「……もしかして、あの子と、リリー・バーデと婚約をするために私との婚約を? ねえ、そうなんでしょう!」
「ガブリエラ、君は一体何を……」
「惚けないでくださいませ! いつもいつも私のことはほったらかしにして、あの子といたくせに、今更私のことが好きだなんて、私の幸せを願っているだなんて、そんなこと、あり得るはずがないですわ!」
ボロボロと、先ほどよりも大粒の涙をこぼしながら、ガブリエラは叫ぶ。
心の内を、ずっと我慢してきた自分の本心を。
「じゃあ、私はなんだったんですの、ただ私が勘違いをしていただけだって言いたいんですの?! そんなの、そんなの、あんまり、ですわ……」
話していても、話終わっても、とめどなく溢れ続ける涙が、ガブリエラの悲しみを表している。
その表情を見て、言葉を聞いて、ルドルフは理解する。
「すまない、すまない、君が僕のことを本当に愛してくれていたなんて、気づいていなかった。本当に、すまない……」
泣きながら自分を抱きしめるルドルフに、ガブリエラは微笑みかけて言う。
「いえ、いいんですわ。私は貴方を」
ーー愛して、いますから……
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パーティが終わり、ガブリエラとルドルフは一緒の馬車に乗っている。
ルドルフは、隣にいるガブリエラに話しかける。
「そういえば、なんだけど……」
「なんですの?」
「あ、いや、あのさ、バーデ嬢を虐めていたっていうのは本当なのかい? 嘘だとは思うんだけれど、一応聞いておきたくて」
ガブリエラの視線が泳ぐ、ルドルフは首をこてんと傾げている。
冷や汗を流しながら、ガブリエラは口を開いた。
「あーえっと、そのぉ」
「ん、なに?」
ーー全て、事実でございますわ!




