掌⑲
目が覚めたら知らない部屋にいた。病室だとわかるまで少し時間がかかった。体が重くて胸の辺りが切り傷でも出来たみたいに痛む。
昨日は理久とラーメンを食べに行ったっけ。それから家に帰ってDVDを見て…… なんで病院のベッドにいるんだ?
近くに携帯電話も見当たらなくてとりあえずナースコールを押してみた。
看護師と医者が順番に来て手術を受けたことを知らされた。でも、そんな兆候はなかったはずだ。
家族に連絡すると言われて部屋で待っていると捷が来た。来て早々、話せるようになったんだなと僕に言った。どうしてそんなことを言うのか尋ねると、捷は横の床頭台に置いてあるボードを指差した。そして僕が何年も眠り続けていて意識が戻ったけど声が出せなくなっていたと話した。歩けなくなってたとも言った。
変なことばっかりだ。この手術に至るまでに何があったのか聞くと捷はよくわからない事を話し始めた。
山に行ってたとか、僕が車椅子に乗ってたとか、入院中に外出してたとか。それと、一緒にいた人達のことも聞いたけど誰なのかさっぱりわからなかった。
そのなかでもユウカという名前の子のことを捷は顔色変えて説明してきた。何度も見舞いに来てくれているらしい。でもそれも何のことかわからない。昨日まで普通に生活してただけなのに、いつ僕が入院したっていうんだろう。
疑問に思っていると捷は緊張した様子で聞いてきた。
「蓮、いま何年何月かわかるか?」
答えると捷は時間でも止まったかのように呆然とした。僕が記憶をなくしてると言う。
そんな訳ないだろ、そう言って笑うと携帯の画面を見せてきた。その日付を見て愕然とした。
すぐ会社に戻らないといけないと言って捷は部屋を出ていってしまった。携帯がないから人とのやりとりも確認できない。床頭台の引き出しや扉を開けてみた、日用品やスケッチブックが1冊子入っているだけで情報を得られそうなものはひとつもない。
夜になると理久がきてくれた。知らない女の子を連れて来ていた。理久は台に立て掛けてあった文字ボードを取り出した。いらないと伝えると驚いた顔をして、話せるようになったのかと言った。それを聞いて捷が言っていたことは本当なんだと思った。
理久ならわかってくれるかもしれない。そう思って昨日一緒にラーメンを食べに行っただろと聞いた。でも理久は覚えていなかった。覚えていないというより、僕の方がおかしくなってしまったのかもしれない。話しながらそんなことを考えていた。




