掌⑧
待ち兼ねた予約の日が来た。店内は朝から予約のお客さんでいっぱいになっていた。
やることはいっぱいあるし、お客さんとの会話に神経も使う。それでも頭の片隅では早く16時にならないかと願ってばかりいる。そしてついに15時を過ぎた。そわそわしながら担当しているお客さんのカットを始めた。あんまり話すことを好まないお客さんだった。
俺はしつこいくらいに時間を気にした。あと30分、あと20分……
「仕上げどうしますか?」
「軽く巻いてください」
「わかりました」
コテをラックから取り出してコードをほどきコンセントに挿した。頭を上げた瞬間、ドアのベルが聞こえた。
夕夏ちゃんが来た。目が合って俺は固まった。まだ施術中だから手を振る訳にいかない。受付にいたアシスタントの女の子が声をかけたのを見て仕上げの作業に集中することにした。
お客さんを外まで見送ったあと、自分の髪を整えてから店の中へ戻った。
「ごめん、お待たせ」
「ううん。お疲れ様」
「席案内するね」
「はい」
「いま外出たけど雨降りそうだね」
「うん」
「傘持ってきてる?」
「折り畳みのがあるから大丈夫、ありがとう」
「よかった」
椅子を回して夕夏ちゃんに座ってもらった。
「どんな感じにするか決まってる?」
「長さはこれくらいまで切ってほしいの」
夕夏ちゃんは鏡を見ながら肩の少し上辺りに手を当てた。
「え、そんな切るの!?」
「うん。あとはボブっぽい感じで」
「わかった。20センチくらい切ることになるけど、ほんとにいいの?」
「ちょっとスッキリしたくて」
「そっか。色はどんなのがいい?」
「トーンは今のままで、ベージュっぽいのがいいな」
「オッケー」
髪色のサンプル表を開いて見せた。
「トーンは7くらいだから、ベージュにするってことは黄色っぽくならない方がいいってこと?」
「うん」
「これとかどう?」
「うん、こんな感じがいい」
「よしっ。じゃあシャンプーから」
タオルとケープを巻いてシャンプー台へ案内した。顔にタオルを乗せてお湯が出るのを待ちながら、夕夏ちゃんが髪を思いきって短くする意味について考えた。
「来月、どこ行きたいとかあったら言ってね」
「うん。まだ考えつかなくて」
「それなら全然。どっか面白そうなとこ探すよ」
「ありがとう」
「24日晴れらしいよ」
「そうなんだ。楽しみだね」
「うん」
隣のシャンプー台に人が来た。担当は同僚の一哉だ。
一哉は俺の顔を見ながらニヤニヤしている。お客さんの顔にタオルを掛けるとまたこっちを見て意味ありげにニヤついた。見てんじゃねー、そんな顔をして見せた。




