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掌⑥

「橋詰さん、どんな感じだ?」

どんな感じ… もしかして俺の気持ち気付かれてるのか?…

シャンプーしてる手が止まってた。こんなんじゃダメだ。

「えーっと、今度オススメの飯屋に行こうって誘ったら、楽しそうって笑ってました」

柳瀬さんは何も言わなくなった。反応がいまいちわからなくて俺は洗髪に集中した。お互い話さず静かだけど美容室じゃよくあることだ。疲れてるなら尚更。

髪の水分を絞りきり、勢い良く拭いたあとそのタオルを頭に巻いた。

「起こしますね」

顔に掛けていたタオルを取ると柳瀬さんはゆっくりと目を開いた。

再び席に戻り肩を軽くマッサージした。椅子の高さをあげて髪に櫛を通していると柳瀬さんは言った。

「橋詰さん、元気がないんだ」

「え?」

柳瀬さんは真剣な顔をしている。

「捷に聞いたんだ、蓮の記憶が飛んでるって。橋詰さんのこと思い出せないんだろ?」

「あー…はい」

「すごく落ち込んでるんだ。周りに気付かれないようにしてるみたいだけど、隠しきれてないっていうか。だからお前といる時はどうだったのかなって」

「昨日会った時は前向きに考えようとしてる感じはありましたけど。それに、飯屋の写真見せたときは笑ってたし。そりゃあショックはショックなんでしょうけど」

「そうか。お前といる時は笑えてるんだな」

そう言われて嬉しくなった。

「まぁ、一応仲良いっすからね」

ハサミ捌きに力が入る。なんか切り心地もいい。

「できるだけ元気付けてあげてほしい。あんなに落ち込んでる橋詰さん、今まで見たことないんだ」

「そうっすね。夕夏ちゃん、疲れてるのもあるんじゃないですか?疲れてる時って考えも悪い方へ行きがちだし」

「もちろんそれもあるんだろうけどな」

前髪にハサミを入れていくと柳瀬さんは目を瞑った。

「蓮が転倒した日のこと詳しく知ってるか?」

「いや、知らないっす」

「捷がずっと気になってるみたいなんだよ。あの日橋詰さんの他に3人いたらしいんだけど、病院に着いたらその場に2人いて、会ったことがない子だったって言ってた」

「それがどうかしたんですか?」

「橋詰さんと蓮が初めて会ったのは割りと最近だろ?共通の知り合いがいるって前に聞いたことはあったけど、もうすぐ退院ってときにわざわざ外出許可を取って山なんかに行く理由ってなんなのかなって」

「山!?」

「うん。山の途中に友達が物件を買って、そこに遊びに行ったらしい」

「そんな友達いたっけかな。3人って、あと1人も知らない人ですか?」

「見てないらしい。気絶してて別の部屋に運ばれたって」

「気絶… 色々わかんないっすね」

「蓮は転倒のショックでそこに行ったことを覚えてない。一緒に行った友達のことすら全部忘れてるんだ」

「それが変ですよね。だって、俺とかのことは覚えてるし忘れてるってことはそんなに古くない友達なんだろうし」

「そうなんだよ」

大方カットを終えてドライヤーをかけた。音で聞こえないのもあって、またお互い黙り込んだ。


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