掌⑤
「そうだ、髪切ろうと思うんだけど、理久君のお店今週予約取れるかな?」
俺が飯屋の写真を見ていると夕夏ちゃんが言った。
「あ、切るの?何曜がいい?」
「できれば土曜がいいんだけど。時間は何時でも」
「オッケー、明日出勤したら予約リスト見て連絡する」
「ありがとう。もし理久君が空いてなかったら他のスタッフさんでお願いします」
「いやー、俺たぶん結構空きあったと思う」
澄ました感じで言った、けど内心は焦ってる。夕夏ちゃんの髪は俺が切る。
「お店探してる途中だったね、ごめん」
「全然。あっ、この店!」
一番気になってる飯屋の写真を見せた。
「うわぁ、美味しそうだね」
「だよね!?チーズ好きなだけかけてもらえるんだ。あとケバブもあるよ」
「すごい、楽しそう」
「俺、平日は仕事終わるの遅いし土日はほぼ無理だけど、火曜なら休みでいつでも迎えに行けるからさ、夕夏ちゃんが仕事終わりに行けそうな時あれば言って」
「わかった。その時は連絡する」
翌日、俺は予約リストを確認して夕夏ちゃんにメッセージを送った。カラーとカット、予約は16時で決まった。土曜に会える、そう思うと仕事に一層気合いが入った。
18時を過ぎて俺が担当になってる最後のお客さんが帰った。床を片づけているとドアの開く音がして目を向けた。そこにはいつもながらの爽やかな出で立ちの柳瀬さんがいた。
「こんばんは。予約してないけど大丈夫かな?」
「ちょうど俺空いたんで、ちょっと待っててもらえたら」
「よかった。じゃあ理久にお願いするよ」
「はい」
急いで残りの片付けを済ませ、柳瀬さんを椅子へ案内した。
「今日早かったんですね」
「ああ、夕方のアポがキャンセルになったんだ。連日残業だったから今日くらいは早く切り上げようと思ってね」
「お疲れ様です。カットいつも通りにしますか?」
「うん、いつも通りで」
「了解です」
タオルとケープを巻いてシャンプー台へ案内した。髪を濡らしてシャンプーをし始めると柳瀬さんが言った。
「理久、この間橋詰さんと会ったんだろ?」
「えっと、ご飯の事ですか」
「うん」
「行きましたけど、なんで知ってるんですか」
「橋詰さんか急いで帰ろうとしてたから約束でもあるのって聞いたら花火の約束忘れてたからご飯に行くって」
「花火のことも!?」
「会社の後輩で橋詰さんと仲良くしてる女の子がいるんだけど、その子が花火大会はどうだったのかって聞いててさ。橋詰さん慌ててたよ」
「ってことは、花火大会約束してる話もしてたって事っすか?」
「してたよ」
「へー…」
一瞬思った。花火大会に行く話をしてたってことは、ちょっとは脈ありなのか?
「夕夏ちゃんその時なんか言ってました?」
「なんかって?」
「いや、その…」
夕夏ちゃんに惚れてるってことは柳瀬さんには言ってない。てか、蓮に紹介した子に俺が惚れてるなんてバレたくない。
柳瀬さんは俺の返答を待っているのか黙ったままだ。顔にタオルをかけているからどんな表情をしてるのかわからない。俺はこの焦りをうまくごまかせないか言葉を考えた。




