追憶32
仕事を予定通りに終わらせるつもりが資料の追加が発生して結局会社を出られたのは18時30分を過ぎた頃だった。柳瀬さんはスケジュールが合えば私を車に乗せて一緒に面会へ行くつもりだったと言った。ところが急遽入ったアポで無理となり、蓮によろしく言ってくれと頼まれた。私は電車に乗り、急いで蓮のいる病院へ向かった。
病院の夜間出入り口を通ろうとしたとき後ろから声をかけられた。
「夕夏ちゃん!!」
振り向くと理久君がいた。
「理久君、久しぶり」
「久しぶり」
「理久君も蓮のところ?」
「うん」
私達は受付を済ませ、エレベーターへ向かって歩きだした。
「大変だったみたいだね」
「うん、捷さんから聞いたの?」
「そう。あいつ、目が覚めたんならメッセージくらいよこせばいいのに」
「経過はいいって聞いたけど、前みたいに手足の動きが悪くなってるのかも」
「そうかな?病気って色々大変なんだな」
到着したエレベーターに乗り込み、7階で降りた。病室の前で躊躇っていると理久君がそっと前に出てドアをノックし開けてくれた。
「よう、蓮」
蓮は起きていた。嬉しそうな顔で理久君を見ている。
理久君は床頭台の隅に立て掛けてある文字のボードを見つけて手に取ると蓮に渡した。
「これはいらないよ」
蓮の声を聞いて理久君は驚いた。
「お前、話せるようになったのか?」
「うん、まぁ」
「すげー、よかった… じゃなかった。すげー心配したんだぞ、連絡くらいよこせよ」
「ごめん、携帯が見つからなくて」
「なくしたのか。まぁ携帯はまた買えばいいしな。なんとか無事でよかった」
蓮は一瞬私を見た。
「ICUとか聞いてまじでビビったよ。なんか案外元気そうだな。あ、元気そうって言ってもあれだぞ、ちょっとは顔色が良いって意味だからな」
「気を使わなくてもわかってるよ」
蓮は微笑んだ。そしてまた私は目が合った。その様子からもしかしてタケルの記憶が融合されたんじゃないかと思った。でも、理久君がいる。今ここで特別な話はできない。
「なぁ理久、一緒にラーメン食べに行っただろ?ほら、テレビでやってた具が山盛りのやつ」
「ん?」
「覚えてないのか」
「なんだそれ?」
「いや、なんでもない」
理久君は全くわからないという顔をした。私も何の事かわからず会話をただ聞いている。
「そうだ。蓮、髪伸びてきてるだろ?今度またカットの用意持ってくるよ」
「…ありがとう」
「ありがとうとか言うなって」
理久君は笑った。そして続きを話そうとした途端、蓮が遮るように言った。
「理久、その子友達か?」




