追憶31
捷さんから連絡が来たのは夜11時を過ぎてからだった。
蓮は急性大動脈解離という心臓付近の大動脈内膜が裂ける病気を発症したとのことだった。危険な状態にあったものの輸血をして一命を取り止めICUに入った。それを知って私は自分の考えの甘さを悔いた。
以前蓮は時々不整脈が起きると言っていた。あの建物の階段を上っていく姿を見てすっかり良くなったんだと誤解し油断していた。2人が入れ替わっていることをどうにかしようとするよりも体のことを優先して退院まで待つべきだった。そんな後悔を浮かべながら次の連絡を待った。
5日後、仕事の昼休憩中に捷さんからメッセージが来た。ICUから一般の個室に移り、面会もできると書いてあった。
私は仕事の帰りに病院へ行くことを返信した。するとその直後、メッセージに既読が付くとすぐ電話がかかってきた。
「夕夏ちゃん、今大丈夫 ?」
「大丈夫です、昼休憩なので」
「そう。蓮なんだけど、実は手術後しばらく眠ったままで今朝 意識が戻ったんだ」
「そうだったんですか」
「さっき会いに行ってきた。経過はいいみたいだから安心して」
「本当ですか… 良かった」
「今日行ってくれるんだよね。まだ意識が戻ったばっかりで、その…」
捷さんは何かを言いにくそうにしている。
「はい。無理させないようにちょっと顔を見たらすぐ帰ります」
「……ありがとう」
「連絡していただいてありがとうございました」
「うん、それじゃあ」
電話を切るとお弁当を食べながら様子を気にかけていた柳瀬さんは私の表情を観察した。
「今のって」
「はい、捷さんです。蓮がさっき意識戻ったそうです」
「そうか、良かった」
休憩室のドアが開いて目をやると経理の山下さんが私をまっすぐな視線で見ていた。
「橋詰さん、あなた資料の準備どこまで進んでるの?」
「あ、午後から最終チェックをして印刷しようと思ってます」
「封入と宛名シールまで全部任せていいのよね?」
「はい。私がします」
「絶対に夕方までに終わらせて。まったく、月末に有休取るなんて宮園さんはどういう神経してるのかしら」
「あの、私が全部しますのでご心配なく」
「心配もするわよ。新しい取引先が増えるのよ。最初からミスがあったら向こうも不安になるでしょ」
山下さんは短く溜め息をついて事務所へ戻って行った。
「山下さんピリピリしてるね。資料準備、不安があれば俺も一緒にやるから言って。今日面会行くんでしょ?」
「はい、ありがとうございます。できるだけ頑張ります」
「うん」




