追憶28
「莉奈!!」
遥人君は真っ先に駆け寄った。
「恭也、大丈夫か?」
タケルは恭也さんの上半身を起こした。恭也さんは体が痛むのか息を詰まらせている。積んであった資材は派手に散らかっていて脚立が倒れている。その状態からみて莉奈ちゃんが脚立から転倒して車椅子に覆い被さったのだと思った。
タケルが恭也さんの肩を組み立ち上がらせた。私は座れる位置に車椅子を寄せた。
「恭也さん…ごめんなさい」
莉奈ちゃんがか細い声で言った。
「気にしなくて、いいよ」
「莉奈、脚立に乗ったのか?」
遥人君が聞いた。莉奈ちゃんは顔色が悪く、口を閉ざしている。
「莉奈ちゃん、どこか痛いの?」
「…大丈夫です。脚立に座ってたんですけど、急に立ち上がっちゃって、そしたら脚立が傾いて」
莉奈ちゃんはもう一度恭也さんに頭を下げた。
「いいんだ。俺もこんな真後ろにいたから」
よく見ると莉奈ちゃんの右腕からわずかに血が出ている。
「腕、血が出てる」
「あ…」
莉奈ちゃんは呆然としている。
「救急箱があるから中に入って」
タケルが言って私達は建物の中へ入った。
2人とも打撲はあるものの大きな怪我はないとわかって安心した。莉奈ちゃんの切り傷は浅く、消毒をしているうちに血は止まった。
「念のため今日はもう解散しよう。恭也も疲れてきてるだろうし、転倒しているから早めに病院に戻った方がいい」
「まだもう少し確認しておきたいことがある」
「恭也、無理をしない方がいい。気になるものがあるなら写真を撮って送るから」
「…そうだな。また今度にするよ」
遥人君は莉奈ちゃんの様子を気にしている。
「俺ちょっと外片付けてきます」
「あ、あたしも行くよ」
「莉奈はここで休んでろ。怪我してるし」
「わかった…ごめんね」
遥人君が出ようとするとタケルが立ち上がった。
「片付けは僕がするからいいよ。車のエアコンを先につけといてくれない?」
「あ、そうすね。わかりました。でも冷えるまでの間は片付けます」
「うん。ありがとう」
15分ほどして遥人君が呼びにきてくれた。私達4人は車に乗り込みシートベルトを閉めた。恭也さんは後部座席の窓を開けてタケルに言った。
「また連絡する。わからないことがあればいつでも聞いてほしい」
「わかった。僕は基本は東京にいるけど何かあればそっちに行ける」
「ありがとう」
車が出発してタケルは片手を大きく振った。
誰も話をしようとしない。莉奈ちゃんは恭也さんを転倒させてしまったことをかなり気にしているようだ。変に話題を出すのも窮屈かもしれない、そう思って暫く窓の外を眺めた。
明日は仕事だ。9月から新たに加わる取引先の資料を作らなければいけない。宮園さんに以前その手順を教えたときメモをとっていたのを見た。でも実際に自分で準備したことはなかったはずだ。どれくらい覚えているだろうかーーーーー
「……ぅ゛」
車が振動する音に紛れて声が聞こえた。隣を見ると恭也さんが胸を押さえていた。
「恭也さん?…」




