追憶⑱
車は山を登り始め、ゆっくりとカーブを曲がり続けた。上の方へ進むに連れて眩い緑が視界に広がった。木々に覆われた道に入ると木漏れ日が降り注いだ。遥人君と莉奈ちゃんは景色の変化を楽しんでいる。恭也さんはずっと変わらない表情で外を見ている。その横顔は寂しげで、意識はどこか遠くにあるかのように見えた。タケルが夢を叶えようとしてくれていると恭也さんは言っていた。大切な人は遠いところへ行ってしまってもう会えない。だけどその夢が完成したとき、恭也さんには笑顔になってほしい。新しい道が拓けてほしいと強く願っている。
暫くして、ナビは間もなく目的地に着くことをガイダンスした。
「あっ!見て!」
莉奈ちゃんが前を指さした。目を細めると家らしき建物が小さく見えた。
「あれか!恭也さん、あれっすよね!?」
遥人君が声をあげた。恭也さんはゆっくり瞬きをすると視線を向けた。
「…あの家だ」
近付くと家の外壁には長い木の板が何枚も打ち付けられているようだった。古民家と聞いていたけど屋根に瓦はなく、白く綺麗なトタンが貼ってある。作業は随分進んでいるみたいだ。
遥人君は建物の傍に車を停めてくれた。周りには色々な資材が置かれている。
「先に電話した方がいいんすかね?」
「あー、そうだね。私かけるよ」
「お願いします。車椅子下ろしときます」
「ありがとう」
携帯電話を取り出してタケルに電話した。呼び出し音を聞いていると先に降りた莉奈ちゃんが車の外から窓ガラスを叩いた。莉奈ちゃんは後ろの方に立っているタケルを指さした。
車のドアを開けるとタケルは私の顔を見て笑みを浮かべた。そして隣の人を見て表情が変わった。
「……どういうこと?」
「タケルに会わせたかった人だよ」
タケルは言葉を失い立ち尽くしている。
「タケルさん!」
遥人君が声を掛けた。
「うわー、やっぱり2人そっくりっすね~!」
遥人君はそう言ってからタケルの表情に気付き眉を顰めた。
「えっ…どうしたんすか?」
「タケルには言ってなかったの。恭也さんに会わせたいってことしか」
「あ、そうなんですか?」
「タケル、恭也さん車椅子に乗るんだけど中に入れそう?」
「…昨日床を貼り替え終わったところなんだ。入れるよ」
「よかった」
遥人君は反対側に回り込んでドアを開けた。
「恭也さん、どうぞ!」
「ありがとう」
遥人君が車椅子を支えて恭也さんは後部座席から移った。タケルはその様子を深刻な顔つきで見ていた。




