追憶⑰
「はじめまして!遥人です」
「莉奈です!」
「はじめまして。倉前、恭也です」
「座るの辛くないっすか?あれだったらシート倒して寝てもらっても大丈夫っすよ」
「ありがとう、このままで大丈夫」
「全然遠慮しないでくださいね!」
恭也さんは遥人君と莉奈ちゃんのことを知らない。一応タケルと2人の関係は簡潔に話してある。遥人君は過去にタケルから真由那さんの存在を聞いているけれど、亡くなったことは知らないはずだ。
「恭也さん、この2人には私が長野で一人暮らしを始めたときからお世話になってるんです」
「俺は近所の中華屋の息子で、夕夏さんがうちの店に来てくれるようになって仲良くなったんです。夕夏さん、お世話になってるなんて逆っすよ!」
「そうそう!莉奈たちがお世話になってます!」
「仲いいんだね。今日は無理を聞いてもらって本当にありがとう」
「全然いいっすよ!協力できて嬉しいです。タケルさんにも久々会えるし」
「ほんと久しぶりだよねー!でももう会ってるみたいで変な感じ」
「まじで恭也さんとタケルさん見分けつかないよな」
「さっき遥人口空いてたもんね」
「いや、まじで今もタケルさんと喋ってるみたいで混乱してる」
「声も似てるよね!それにしても夕夏さん、タケルさんは山で何してるんですか?」
「古民家のリフォームをしてるみたい」
「リフォーム?」
「うん、そこをね、ログハウス風に改装するらしくて」
「えー!すごい!」
恭也さんの反応が気になる。真由那さんのことを話していいものか迷う。
「どうしてそんなこと始めたんですかね?」
「……」
説明していいかわからず黙っていると恭也さんが言った。
「俺のためなんだ」
「恭也さんのため?」
莉奈ちゃんは不思議そうに聞いた。恭也さんは少しの間窓の外を眺めてから答えた。
「俺が捨てた夢を、彼が代わりに叶えようとしてくれてる」
「捨てた夢?夢ってなんですか?」
「大切な人が好きだった、本の物語に出てくるログハウスをそこに作ろうとしてた」
「へー、なんていう本ですか?」
「懐中喫茶」
「カイチュウキッサ?」
真由那さんについて知らない莉奈ちゃんは悪気なく質問を続ける。
「小説なんだ。主人公が悩んでるときに出会った老人が、そこを貸してくれて人生を変えていく話」
「えー!感動系の話なんですね。もしかして、大切な人って彼女さんですか?」
「…うん」
「すごーい!そんなの絶対嬉しい!彼女さん幸せですね」
「…」
「完成したら私達も遊びに行っていいですか?」
「是非、お礼をさせてほしい」
「やったー!今度彼女さんにも会ってみたいな」
車は海が見える高速を走り出した。恭也さんは海を横目に眺めている。遥人君は運転に集中してくれているのか無口だ。
「うわー、めっちゃいい天気。海きれ~」
少し開けた窓から風が音を立てて入ってくる。その音が暫くの沈黙を搔き消した。




