表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/97

追憶⑨

『……夕夏、昨日はごめん。話したいから、また電話する』

留守電再生が終了した。話したいと言った声が寂しそうだ。

着信履歴からタケルの番号に発信した。コール音が鳴っている。応答ボタンを押して反応を待つ、数秒の静けさに息を呑んだ。

「…はい」

『ごめん、夕夏。今いいかな?』

「うん、大丈夫。あの、私もごめん」

『どうして夕夏が謝るの?』

「えっと…」

『夕夏は何も悪くないよ』

「でも私、タケルが怒るようなこと言ったんだよね?」

『怒ったんじゃないんだ』

「じゃあ、どうしてあの時…」

『そのことは本当にごめん。気持ちに整理がつかなくなって。莉奈ちゃんから電話が掛かってきて怒られたよ』

「あ」

『何回も留守電が入っててさ、すごい大声で』

「大声で?」

『うん』

莉奈ちゃんが言いそうなことを想像した、きっと半泣きになって必死に伝えてくれたんだと思う。

『もう一度説明してくれないかな。僕が僕の人生を生きられるって、どういうこと?』

「思ってもみないことが起きてるの、それがうまく説明できなくて、だから直接会ってほしい人がいるの」

『その人はどこにいるの?』

「長野」

『誰なの?』

その質問を聞いて、ふと思いついた。

「恭也さん」

電話の向こうから声が途絶えた。またタケルを怒らせたかもしれないと思った。緊張しながら反応を待つと不安気な声がした。

『恭也?』

「うん。詳しいことは会ったときに説明する」

『……わかった、会いにいく。明後日から暫くの間長野に行く予定があるから、そのときに会えたらいいけど』

「恭也さんにいつがいいか聞いておくね」

『うん。また連絡して』

「…タケル、ありがとう」

突然喉が震えた。ただ嬉しいだけなのに、目の周りが熱い。タケルは何も言わない。変な沈黙が続いて、それでも私達は電話を切らずにいた。

「今日さ、お父さんが出張から帰ってくるの。久しぶりに会うから楽しみなんだ」

『夕夏がお父さんの話するの初めてだね』

「そうだっけ?今働いてる長野の会社、社長さんがお父さんの知り合いなの。それでこねみたいな感じで就職させてもらって」

『そういえば前にそんなこと言ってたかも。2人で夜歩いてたときに』

「あ、それってあの散歩コース?」

『そう、それ』

「懐かし~。タケルが借りてた家の近くだよね。記憶思いだせるようにって」

『うん。暑い日も寒い日も』

「確かいまの時期ってキンモクセイが咲いてたよね?」

『ああ、そうだったね。いい香りがしてたの覚えてる。でも、もうちょっと涼しくなった頃じゃないかな?ほら、夜でも暑すぎる時期は散歩やめておこうってなって』

「そっか。ほんと、懐かしいな~」

『そうだね』

次々浮かぶ思い出に話が止まらなくなる。優しい声に耳を傾け、あのときの悲しい感情を忘れてしまったかのように笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ