追憶⑧
菜香ちゃんの鳴き声がして暫くすると花絵ママが上がってきた。それで私は帰ることにした。
花絵はゆっくり話聞けなくてごめんねと言ってくれたけど私にとっては充分だった。また年末に帰ったら会いに来ると言って花絵の家を後にした。
家に帰ると食卓にはいつもより豪華なおかずがたくさん並んでいた。
「おかえり、花絵ちゃんのところどうだった?」
「楽しかったよ。菜香ちゃんすっごい可愛いかった」
「でしょー!?あの子ほんとに可愛いのよね~」
「お父さんは?」
「まだ帰ってきてないわよ。新幹線がちょっと遅れてるみたい」
「そうなんだ」
「まさか出張の時期と重なるとはね。あんたに会えるの楽しみにしてたのよ」
「うん」
「明日出る時間早いでしょ?先にお風呂入ったら?」
「そうしようかな」
「あと1時間くらいかかるって言ってたから、一応お風呂沸かしてあるわよ」
「じゃあお風呂入ってくる」
「はーい。あ、荷物はもうまとめたの?」
「うん。あとは向こうに持って帰る服選ぼうかなって思ってる」
「そうね。着てない服結構いっぱいあったわよ。クローゼット以外にもお母さんまとめてしまってあるんだから」
「え、そうなの?」
「うん。後で出してあげる」
「ありがとう」
湯舟に浸かりながら、明日からまた長野での暮らしが始まるのかと考えた。
実家に帰って安心しているのか、やっぱり入れ替わりなんておかしいんじゃないのかと思えてくる。
それでも、入院している蓮の口から恭也さんの名前が出るのはありえないことだ。ましてやネイビーのマフラーを渡した事実を知っているのは恭也さんとタケルだけだ。となると入れ替わってるというのは確かで……
スリッパで歩く音が聞こえてきた。ノックのあと浴室のドア越しに母が大きな声で私に訊いた。
「夕夏ー、携帯鳴ってるけどどうする?」
「あとでかけるからいい」
「タケルって書いてるけど」
慌てて立ち上がった。手が濡れてるし母の前で電話に出るのは何となく嫌だ。でも、今出ないともしかしたら…
ドアを開けて洗濯機の上のタオルを掴み取り体に巻いた。
「かして!」
受け取ろうとした瞬間、電話の着信音が消えた。
「あーあ、切れちゃった」
母はそう言ってまじまじと私の顔を見る。何を言いたいのかわかりやすい。
「あ…」
携帯電話の画面に“ メッセージ録音中 ”の文字が表示されている。
「あんた彼氏いたなら早く言いなさいよ」
「彼氏じゃないよ」
「そーなの?」
「…もういいから。携帯ありがと」
「ふーん?」
母はまだ口元に笑みを浮かべている
「服着るから行って」
「はいはい」
母がリビングへ戻っていき急いで服を着た。留守電の内容が気になりながら階段を上り部屋に入った。
ベッドに座り留守電再生の画面を開いた。階段を上ったせいか胸がどくどく音を立てている。




