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追憶⑦

「夕夏、何かあった?」

部屋のドアを閉めると花絵が言った。賑やかな時間を過ごすのかと思ったのに、意外な質問だった。

「え…」

「なんか、寂しそうだったから」

「ほんと?全然楽しんでたけど」

「ならいいんだけど」

そう言いながらも花絵は私を心配そうに見つめる。その視線に嘘をつくのが悪いような気になってつい本音が出た。

「寂しい」

花絵は黙っている。私が話し出すタイミングを待ってくれているみたいだ。

「2年前に好きな人がいたの。でも急に会えなくなって、連絡も取れなくて、諦めようとしたんだけど、最近また会って。向こうから会いに来てくれて、私が会いに行くって言えば家で待っててくれたりしたんだけど、なんかうまくいかないんだよね」

「うまくいかないって、どういうことが心配なの?」

「私さ、勢いで言ったの。好きって。そしたらなんでかわからないけど怒っちゃって。夕夏はわかってないって」

「それってどういう意味?」

「わからない。でも、僕の気持ちをわかってないって言ってた。私も聞けばよかったんだけど、怒ると思わなかったからショックで混乱して…」

階段を上る足音が聞こえてきた。ノックの音がしてドアを開けると紅茶を乗せたトレーを持った花絵ママが顔をのぞかせた。

「おまたせー。さっきとは違う紅茶にしたの、フルーツティー」

テーブルに置かれた紅茶のカップにはオレンジの輪切りが浮かんでいる。

「ありがとうございます」

「夕夏ちゃんさえ良ければ晩ご飯うちで食べていってくれていいから」

「ママ、夕夏明日長野に帰るんだよ?夕夏の家族だってご飯一緒に食べたいんだから」

「そっか、そうよね。ごめんごめん」

花絵ママはにこやかに手を振ると階段を下りていった。

お互い暫く無言で紅茶を見つめた。紅茶の匂いに包まれて鮮やかなオレンジ色を見ていると、ぎりぎりだった心が少し慰められるように感じる。

花絵がカップに手を伸ばして、私も同じようにまだ熱い紅茶を一口飲んだ。それから花絵は言った。

「大切な人だからこそ、言えないことってあるんだよ。その人、2年も経ってるのに夕夏に会いに来たんでしょ?」

「…うん」

「怒ったんじゃないのかもしれないよ」

「え?」

「きっと言えない気持ちがあるんじゃないかな。いま聞いたばっかりで事情は知らないけど」

「そうなのかな…」

花絵の目をそっと見た。

「どうしてそう思うの?」

「夕夏の顔見てたら何となくだけど、いい人なんだろうなって」

そう言われると思い出が浮かんでくる、またじわじわと涙が溜まってくる。

「色々あって、ほんとに色々あって、やっと一緒にいられるって思ったのにこんな感じになって」

湿っぽくならないように笑おうとした、でも、涙が勝手に零れ落ちていく。

カップを置いて涙を拭った。昨日から泣いてばっかりだ。




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