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追憶⑥

花絵の視線を逸らすようにして私はテーブルに並べられた桃のタルトに目をやった。

「うわー、懐かしい」

そう言うと花絵ママは私達が幼かったときの話を楽しそうに語ってくれた。それを聞きながらほのかに桃の甘い香りのするタルトを口に運び懐かしさに頬を緩めた。

「あんなに寡黙だったこの子が子供抱いて笑ってるんだもの。なんだか不思議な感じよね」

「それ、私もさっき思ってました」

「そういえば、夕夏ちゃんは今いい人いないの?」

その一言に花絵と隆平が同時に私を見た。いないと言えばいいだけなのに、変な間ができてしまった。

「あ、その反応はいるってことね」

花絵ママはいたずらな笑みを浮かべる。

「お前、あのTシャツやっぱり」

「隆平君、Tシャツって?」

話が盛り上がりつつあることを拙く感じる。

「そう言う隆平はどうなのよ」

「俺?…実は、彼女できた」

「えー!隆平君に彼女?」

「ママ、言い方」

「だって花絵、今まで隆平君から彼女の話ってママ聞いたことないんだもの」

「それはそうだけど」

「で、どこのどんな人なの?」

「会社で営業事務してる子で」

「えー!社内恋愛ー?」

花絵はママの反応に眉を顰めて笑った。

話題がそっちに向いて気楽になれた私は桃のタルトを堪能しながら隆平の彼女について興味津々に聞き入った。


時間はあっという間に過ぎていった。夕方5時を過ぎて私と隆平は帰ることにした。花絵は眠っている菜香ちゃんを抱きながらママと玄関まで見送りに来てくれた。

「夕夏ちゃん、明日は長野に戻っちゃうのよね?次はいつこっちに来るの?」

「お正月ですね」

「そっかー。それまで寂しくなるわ」

花絵ママは心底寂しそうな顔をした。それがとても嬉しい。

「ありがとうございます。またお邪魔しに来ます」

「うん!いつでも待ってるわね。隆平君も忙しいと思うけど仕事頑張ってね。今度は彼女連れてきてくれてもいいから」

「え、それは…」

「2人だって会ってみたいわよね?隆平君の彼女」

私と花絵は顔を見合わせて笑った。

「そうですね。隆平、楽しみにしてる」

隆平はなんとも言えない顔で頭を掻いた。

「ありがとうございました」

玄関のドアを押し開けて隆平が外に出た瞬間、柔らかな感触がして自分の手首を見た。

「花絵?」

花絵が私の手首を掴んでいる。

「夕夏、ちょっとだけ2人で話さない?」

「うん、いいけど」

隆平が振り返った。

「ごめん隆平、私残る」

「ああ、わかった」

隆平は手を振りながら気を利かせたように笑いかけてくれた。

ドアが閉まると花絵ママが菜香ちゃんをそっと花絵から抱き取った。

「後で紅茶持ってくから2階でゆっくりしてね」

「ママ、ありがと」

「じゃーねー」

眠る菜香ちゃんを揺らしながら花絵ママは小さく手を振った。



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