再生⑪
最後に書かれたサインを見て、途中抱き始めた疑問に答えがでた。
真由那は別荘の内装を色鉛筆で描いたときノートの端にアルファベットの筆記体で自分の名前をサインしていた。それと全く同じものがここにある。この手紙は真由那が書いたものに違いない。
―――――俺は、何をやってるんだろう。
生きることは無意味で、希望を見いだすなんてもう二度としたくないと思っていた。
今の俺をみて真由那はどんな気持ちでいるか。あいつが大切にしていたものを踏みにじるような真似をして……
気が付くと、声を出して泣いていた。
いま何が起こっているのか、そして何をすべきか、夜もずっと考えた。
右手の小指にあるはずのホクロがない。この考えは馬鹿げているのか。入れ替わりなんて、あるのか?
でも、これまでを振り返ってみれば辻褄の合うことばかりだ。ここで唯一俺のことを知っているあの子なら他にも何かわかるかもしれない。
そう思ったとき、自分の不甲斐なさに気が付いた。蓮という人物と俺の体が入れ替わったのは確実で、他人の体で死のうとした俺は人殺しだ。考えるのはいつも自分のことばかりだった―――――
突然、ドアのノックが聞こえた。ドアが開いて看護師が部屋に入ってきた。
「青谷さん、リハビリ行きますよ」
連日、リハビリに集中した。部屋に戻ってからは手を動かす運動をして、車椅子から立ち上がることを何度も練習した。いつか元に戻るとき、青谷蓮には歩ける体を返したい。まだ十分に出ない声も練習のために本の文章を口に出して読んだりした。
初めて廊下の長い手摺を端から端まで歩けるようになった時あの子が傍に来てくれた。歩ききった喜びで上げた声はすがすがしいものだった。あの子は驚いたようだった。
部屋に戻ってあの子が帰ろうとしたとき、ようやく話す決心をした。
「俺は倉前恭也だ」
振り向いたその顔は緊張を浮かべていた。
「どういうこと?」
「話すから、ドア閉めてくれるかな」
「…はい」
ドアを閉めて彼女は椅子に座った。
「蓮じゃないの?」
「どうもおかしなことが起きてるみたいなんだ。君は、俺のことも、もうひとりの人格“タケル”のことも知ってるよね?」
「本当に、倉前恭也さんなんですか?」
「うん」
「でも、どうして」
何をどう整理していいかわからない様子が窺えた。
「先に聞いておきたいんだけど、君は倉前恭也と青谷蓮、両方の人物を知っているんだよね?俺達は全く同じ顔をしていて、別々の存在?」
「はい」
「やっぱりそうか。もう1人は今どこにいる?」
「わかりません」
「最後にいつ会った?」
「先週、私の家で会いました。待ってください、じゃああれは蓮ってことですか?それは絶対にないです」
「混乱してるのはわかる。ただ、信じられないかもしれないけど俺達は中身が入れ替わってる」
突拍子もない話に彼女は顔を歪めたまま言葉を失っている。




