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再生⑨

エレベーターに乗り1階まで下りると多くの人がいた。検査で他の階に行くことはあったが1階まで下りたのは初めてだった。

正面玄関を出ると外の暑い空気が体を包んだ。

「外に出るの、久しぶりじゃない?」

そう聞こえた後、ただ静かにゆっくりと車椅子は進んだ。時々そよぐ風が頬に柔らかな感触を残した。

生きている、そんな言葉が心に浮かんだ。それは何とも言えない感情だった。冷たく傾ききったものが僅かに動いて音を立てるような、そんな感覚だ。

垣根の横を通り一周して正面玄関に戻ってくると家族らしき人達が5人、病院から出てくるところだった。中央の人は小さな花束を手に持っていて、退院した様子だった。その人たちが出るまで車椅子を止めて待った。

その時、あることに気が付いた俺は一瞬心臓を突くような痛みを感じて目を見開いた。

ここは…… 真由那が長野で入院していた時の病院だ。

家族連れが出て車椅子は中へ進んだ。そして改めて周りを見渡した。間違いない―――――

頭に色々な思い出が蘇り胸に鼓動が響いた。目の前が霞むのが涙のせいだとわかったのは部屋に戻った頃だった。



それからの日々は何かが少しずつ違っていった。どんな瞬間にも真由那がこの病院で過ごしていた姿を重ねた。

ある日の昼間、眠りから覚めてお茶を飲もうとベッドの脇にある棚に手を伸ばした時に本を見つけた。

寝ぼけていた俺はそれにも真由那の姿を重ねた。本をパラパラとめくり途中でこの本を読んでいたのは真由那じゃなくてレンという人物だと思った。ついでに最後までページをめくると貼り付けてある返却カードが目についた。カードを入れる封筒のような部分には病院の名前が印字されていた。その印字を見つめながらまた色々な思いが巡った。

病室のドアを叩く音がして目を向けるとドアが開き、あの子が顔を見せた。

俺が本を手にしているのを見て話しかけた、そして本の返却期限が過ぎていると言って本を返却しに連れていってくれることになった。

病院内に図書館があるというのは随分前に真由那が言っていた。本が好きな真由那はいつも何かしらの本を棚に置いていた。

図書館に入ると古い紙を思わせる独特の匂いがした。本を返却したあと、あの子は俺に気をつかって、せっかくだから本を見ていこうと言い自分のペースで本棚を見てまわった。

車椅子でせまい通路を通ることが気になって止まっていた場所で少し周りを見た。この空間に真由那もいたのかと思いながら本のタイトルを並んでいる順に眺めていた。そして、見つけた……

【 懐中喫茶 】

そのタイトルを見た途端、心が大きく息をした。思わず手を伸ばしてゆっくりとその本を引き抜いた。





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