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再生⑧

川沿いの桜は満開になり、写真を撮る人、宴会を開く人で賑わっている。それを見ながら俺の胸は違和感でいっぱいになった。

桜が嫌いだ。幸せはここに在る、そう感じたのも束の間、一瞬にして散ってしまう―――――

真由那が死んだ。手術は成功したはずだった。他の臓器が感染症を起こしたと聞いてからあっという間だった、そう真由那の母親は言った。俺が数日長野に行っている間、容体が変わり始めたことを真由那は黙っていたようだ。東京に戻った日、疲れが溜まっていた俺は病院に行く予定を翌日に延ばした。その夜、真由那は息を引き取った。あの着信に出ていればと毎日考える。

それからはもう何もかも手につかず、起きていても布団から出ることはほとんどなかった。時々真由那がベッドで眠っている夢を見た、俺は随分離れた場所から寝顔を見つめていて、その間ずっと底知れぬ恐怖が胸に迫った。目が覚めるといつも虚無感に襲われた。

いつまでこんな無意味な日々を繰り返すのか。季節は変わり、蝉がしきりに鳴くなかでそんな疑問を持った。

最期に墓参りをして、それから……… 消える方法は何でも良かった。

向こう側にいっても真由那に会えるかどうかわからない。それなら墓の前で挨拶くらいしようと思って長野行きの新幹線に乗った。

川崎家の墓に線香を供えた。地面に座って目を瞑り、頭の中を空にした。ああ、これでもう全部白紙にできる。何の未練もない。

そう思った瞬間、体の力が抜けていつの間にか眠りに落ちた。目を覚ますと病院のベッドに寝ていた。



レン、俺のことを皆そう呼んだ。何が起きているのか理解できず、益々人生は厄介だと思った。

トイレに行って鏡を見ても自分に変わりはなく周りは可笑しなことを言う。訪ねてくるのは知らない奴ばかりだった。

夕夏という子の顔を見たとき、脳が何かを思い出そうとした。でもすぐには思い出せず、死ぬことしか頭にない俺は他のことなどどうでもよかった。

死ぬことも失敗して、また少し違う虚無感にとらわれる日々が過ぎていった。あの子は度々会いに来た。いつも心配を隠せない視線でこっちを見ていた。何を言われても目を合わせないでいた。俺はレンじゃないからだ。

そんななかで気が付いた、2年前長野のハイツに住んでいた頃に一度訪ねてきたことがある子だ。その時の俺は記憶を無くすことが頻繁になり自分の中にもうひとつの人格が生まれていた。

ある日の昼間、看護師に車椅子を押され検査から戻ってくると病室であの子が待っていた。看護師は散歩に行ってきたらどうかと言った。

あの子の顔を見てまた何か思い出しそうになった。返事をする間もなくあの子に車椅子を勢いよく押されてエレベーターの方へと向かっていった。




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