再生⑦
2年前、新幹線のなかで目が覚めた俺はクリスマスカードを握っていた。そこには“タケル”という名前が書かれていた。
東京に着いてからは暫くホテル暮らしとなった。あいつが言ったように、真由那のことを認めてもらうために実家へ顔を出した。
予想した通り、家族は聞く耳を持たなかった。俺の意識が戻るまでに一度、妹の麗華と実家に帰ったとあいつがノートに書いていた。
そのときの様子を読んで、僅か1パーセントでも望みがあるかもしれないと思った俺が馬鹿だった。
一番頭に来たのは真由那の病気について母親が言ったことだった。
もうこの先何を言おうとこの家族の価値観は変わらない、足を運ぶのは無駄だと思った。
麗華は真由那と別れろとしつこかった。それで携帯の着信は無視した。
そして麗華が嗅ぎつけなさそうな場所で住む家を探し、入居審査も比較的通りやすいボロアパートを見つけて申し込んだ。
1年が経った頃、家の事情を知らない真由那が正月は実家に帰ったのか聞いてきた。何気なく出した話題だっただろうがかなり焦った。それで咄嗟に嘘をついた。
帰っていないと言うと真由那は首を傾げていた。そして、来年は帰れたらいいねと言った。
それからさらに1年が経ち、とうとう移植手術が決まって俺達は喜びでいっぱいだった。
退院したらこれまで出来なかったことをたくさんしようと話した。何がしたいかと聞くと真由那は森林浴がしたいと言った。話は広がって、真由那が好きな小説に出てくるログハウスのことが頭に残った。考えているうちに段々夢が膨らんだ。
それを実行するために貯金のほとんどを費やした。退院してからサプライズするほうがいいか悩んだ、でも、大きな楽しみがあるほうが手術前後の体調にいい影響があるかもしれないと思い真由那に計画を話すことにした。
山奥にある中古の別荘を買ったと言うと真由那は目を点にした。築40年の古い物件、それを俺の手でリフォームしてみせると話すと真由那は暫くして涙を浮かべた。
どうせなら小説に出てくるイメージに近づけよう、そう言って真由那に内装などのイメージを色鉛筆で描いてもらった。
そのノートにリフォームの手順を調べながら書き記していった。フリーで請け負っている翻訳仕事の傍ら、レンタカーに資材や道具を積み込んで長野の山奥まで何度も往復した。
当然、多くの体力を消費してきつい時もあった。それでも途中経過を携帯のカメラで撮って見せたときの真由那の反応はそれを吹き飛ばすほど嬉しいものだった。
待ち望んでいた肝臓移植の日がやってきた。手術が無事に終わったと聞いて、膝が震えるほど安堵した。
その頃作業は計画の半分くらいまで進んでいた。急に例の絵のことが気になってネットで調べた。それは真由那が描いて見せた通りの絵だった。
絵のレプリカが販売されているのを見つけてつい購入した。後日、届いた絵を額縁に入れて部屋に飾ってみた。
これだけは退院のときまで内緒にしておこう。そんな考えで浮かれていた俺を、ある日唐突な知らせが絶望へと突き落とした。
朝起きると携帯に真由那の番号から着信があった。時間を見ると深夜2時すぎだった。
変に思って折り返したが、電話は留守電になってしまった。そして数分後、再び着信した携帯電話の画面は真由那の名前を表示していた。
「もしもし?どうした?」
「………」
「おーい」
「………真由那の母です」
「あっ、こんにちは。昨日の夜、真由那さんが電話くれてたみたいなんですけど」
「電話を?……」
その後に聞こえた叫び声が俺に得体の知れない恐怖を与えた―――――――――




