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再生⑤

真由那がついに東京の病院へ移った。俺はほぼ毎日面会に通った。できるだけ会う時間を作るため、仕事には就かず個人で翻訳の仕事を請け負い生活していた。

そしてある日朗報が飛び込んできた。治療の経過が順調で、肝臓の生体移植手術を検討できるまでに数値が落ち着いたらしい。ドナーは真由那の親戚だ。

「長野に戻ったら何がしたい?」

そう聞くと真由那は固まってしまった。

「どうした?」

「……なんか、信じられなくて」

長い髪を耳に掛け直すと綺麗な瞳を俺に向けた。

「ずっと病院の中で生きていくんだって思ってたのに、こんなふうになるなんて」

「頑張ってきたからだろ」

真由那はゆっくりと笑みを浮かべた。

「で、何がしたい?俺が叶えてやる」

「うーん…自然があるところに行きたいな」

「自然?海見に行くとか?」

「森林浴がしたい」

「ああ、そっちか」

「けど、車椅子だと難しいかも」

「そんなことないよ。今はバリアフリーになってるとこも多いから」

「そうなの?」

「うん」

翌日、俺はドライブ雑誌を手に病室を訪れた。雑誌には長野県内にある森林浴スポットが多く掲載されていた。

ページをめくっていると真由那はある写真に目を留めた。

「どうした?」

「このカフェ素敵だなって思って」

そこには緑に囲まれたログハウス風の構えが写っていた。真由那は強く興味を惹かれたようだった。

「じゃあ、ここに行こう」

俺が言うと真由那は目を輝かせた。

「本当に行けるかな?」

「行ける、全部うまくいくよ」

「…恭也がそう言ってくれると、叶う気がする」

「叶うよ」

雑誌に載っているカフェを携帯で検索した。木製のプレートに野菜の鮮やかさが映えるハンバーグランチが一番人気のメニュー。

デザートは自家製で、旬のフルーツを使った様々なケーキが季節ごとに出される。そんな内容を真由那は楽しそうに見ていた。



数日後、面会に行くと真由那は本を読んでいた。その表情は朗らかで、これまでと何かが違って見えた。

「何かあった?」

「え?」

「すごい楽しそうだから」

真由那は本を閉じると微笑んだ。

「ねえ、私達が初めて会ったときの展示会、覚えてる?」

「うん。覚えてる」

「恭也が話しかけてくれた時に見てた絵、あれに似てるの」

「似てる?」

正直なところ、絵のことはどれもすっかり忘れてしまっている。

「緑のなかにログハウスがあって、その周りに花が咲いてる絵」

「そうだったっけ」

「その絵とあのカフェの写真が似てるの。いつかあのお店に行けると思ったら、すごく嬉しくて」

「楽しみにしてくれてるんだ?」

「うん」

真由那は本の表紙を見つめている。

「この小説、ログハウスが出てくる話なの。お店に行ったら物語の世界に入ったような気持ちになれそうでワクワクしてる」

「どんな話?」

「主人公は23歳の女の子で…」

その時、病室に看護師が入ってきた。

「川崎さん、検査の時間ですよ」

「はい。恭也、ちょっと待っててね」

「うん」

真由那は車椅子に乗って出ていった。棚に置かれた小説を見るとタイトルには「懐中喫茶」と書かれていた。




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