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2人⑫

その翌週の休日、病室のドアを開くと蓮は本を手にしていた。読んでるんだと思ったら裏表紙を開いたところにある貸出カードを見ているだけだった。

返却日を見ると期限を1週間も過ぎていて、返却しに行こうと言うと蓮は本を閉じた。ボードを取り出したのを見てまた出て行ってと言われるんじゃないかと思った。覚悟しながら蓮の指す文字を読んだ。


つ れ て い つ て ほ し い


蓮は布団をめくってベッドから足を下し、あっさりと車椅子に移った。

蓮の様子が変わってきている。目を合わせてくれないのは相変わらずだけど、少しでも外に興味を持っていることがわかって嬉しくなった。

病院内の図書館に行くのは久しぶりだった。本を返却して、せっかくだから本を見ていこうと蓮に言った。私達はそれぞれで本棚を見てまわった。一周して戻って来ると蓮がちょうど一冊の本を棚から取り出したのが見えた。どうしてその本が気になったのかはわからない。暫くその本のページをパラパラとめくった。声を掛けるか迷っていると蓮はこっちを向いた。

本を一冊借りて病室へ戻ると蓮はボードを出して一文字ずつ“ あ り か ゛と う ”と指した。それから数週間ぶりに私の目を見てくれた。

それから数日後、柳瀬さんからメールが入った。


最近蓮が熱心にリハビリを頑張ってるらしい。

きっと橋詰さんが来てくれるからだって捷が言ってた。感謝してるってさ。


そう言ってもらえることは嬉しかった。けど、蓮を変えたのは私じゃない。何となくそう思った。

ある日、仕事が終わって面会に行くと蓮が廊下で手摺に掴まりながら歩いていた。

驚いて駆け寄り支えようとすると蓮は首を横に振った。そして歩き続けた。車椅子を探すとだいぶ後ろにあった。車椅子を取りに行き蓮を追った。時々立ち止まりながら、蓮はとうとう長い手摺の端まで歩ききった。思わず涙が溢れた。蓮は差し出した車椅子に座った途端、息を切らしながら「できた」と言った。

声が出たことが信じられなくて茫然とした。看護師が通りかかり、リハビリ以外で勝手に廊下を歩いた蓮を注意した。

病室に戻って蓮はベッドに座った。声、出せるようになったの?と聞くとなぜか視線を落とした。面会時間終了の8時が迫り病室のドアを開けて蓮に手を振った。背を向けた瞬間、蓮の声が聞こえた。

「俺は…」

「え、何?」

「俺は倉前恭也だ」




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