2人⑨
翌日、仕事が終わってから病院に向かった。ずっと雨が降っている。蓮には行くことをメッセージで送った、朝から今まで既読はつかないままだ。
ベッドは空だった。驚いて入り口のネームプレートを見ると名前が消えていた。
ナースステーションに行って聞いてみると蓮は今朝個室へ移動したということだった。
部屋へ向かいながら不安になった、何を話せばいいだろう。
どうして蓮はそんな選択をしたのか、どうすれば胸の内を知ることができるのか。
青谷 蓮、その名前が書かれているのを確認してドアをノックした。ドアをゆっくり開けると理久君が立っていた。
「夕夏ちゃん」
蓮は私を見ようともせず顔を逸らし壁を見つめている。
「理久君も来てたんだ」
「うん」
理久君も元気がなさそうだ。
「蓮、みんな心配してる」
そう言うと理久君はすれ違って部屋を出ようとした。
「夕夏ちゃん、またね」
「うん」
ドアが閉まった。
「ねえ、ご飯もう食べた?」
「…」
「今日はこれ持ってきたんだ」
来る途中に買ってきた差し入れの袋を見せた。
「角煮まん。冷めても美味しいらしいから後で食べて」
「…」
蓮はこっちを向いた、それからベッドの脇にあるボードを取り出すと文字を探し始めた。
て ゛て い つ て
指された文字を見て茫然とした。蓮はボードを見つめたままでいる。
「ごめんね、返事ないのに勝手に来ちゃって」
「…」
「これ、食べれたらでいいから」
「…」
声をかけたいのに言葉が見つからない。
「それじゃ、また」
部屋を出て振り返る、蓮は微動だにしない。ドアを閉めた。まだ言葉を探したままの私は部屋の前で立ち尽くした。
家に着いてから一気に力が抜けた。雨で濡れたヒールを脱ぎながら無表情な蓮を思い出した。無意識に押さえつけていた感情が溢れる、私は蓮の支えになれないことが悲しい。
冷蔵庫を開けて何を作るか考えた、でも、頭のなかにいろんなことが浮かんできて手を動かせない。あきらめて風呂のスイッチを押し部屋のベッドにもたれかけた。
携帯電話を鞄から探し出した、メッセージの通知を見ると遥人君だった。
久しぶりです!元気ですか?
最近夕夏さん見ないから母ちゃんが心配してました
体壊してないといいけどって
元気ならいいんすけど、また顔出してください!
そういえばもう何週間も店に行っていない。蓮に出会って日々が過ぎて、私は目的を忘れかけている。タケルに繋がる手がかりを探すはずがいつのまにか蓮にタケルを重ねて……
遥人君と莉奈ちゃんにこの事を話したらどう思うだろう。タケルと同じ顔の人がいる、そんなことを言えば2人はあの日みたいにはしゃいで会いにいこうとするのかもしれない。
喉が渇いて台所へ行き、冷蔵庫からお茶が入ったボトルを取り出した。お風呂がもうすぐ沸く、なんだか食欲がない、このまま何も食べなくても眠れそうだ、そんなことを思いながらコップへ注いでいるとインターホンが鳴った。




