2人⑦
早く会いたい、そう思っているとメッセージが来た。店に行くのは平日の夜でもいいか聞かれて大丈夫と返信した。
約束の時間が近づくと、店のドアベルが鳴るたびに入り口を見た。そしてやっと会えた。
「来てくれてありがとう」
「こちらこそ、お世話になります」
他のスタッフが夕夏ちゃんを見た。知り合いの子にヘアモデルを頼んだと話したからだ。椅子に案内して座ってもらった。もうこの時点でその日の疲れが吹き飛んだ。
「じゃあさっそくだけど、どれくらいの長さ切っていいかな?」
「3センチくらいなら。傷んでるところは切ってほしいんだけど」
「オッケ。ちょっと髪の状態見てみるね」
髪に触れながら緊張してる自分を恥ずかしく思った。
「どんな感じにしたい?」
「うーん、おまかせしたいかな」
「わかった。ちょっと待ってて」
予めいくつか用意しておいたヘアスタイルの画像を見せた。
「こういうの似合うじゃないかなって思うんだけど、どう?」
「うん、それでお願いします」
それから施術しながらいろんな話をした。話しながら次はいつ頃会えるだろうって考えた。休みは土日祝らしい、会えるとしたらほとんど夜しかなさそうだと思った。
夕夏ちゃんが帰った後、同期の一哉が話しかけてきた。
「お前、あの子ただの知り合いか?」
「なんだよ」
「だって、もうスタイリストなって結構経つのにカットモデルって」
「店長がいいって言ってるからいいんだよ」
「それはいいけどさ。気あるの顔に出まくってたぞ」
「え、まじ?」
「お前ってわかりやすいからな」
「うわ、引かれてたらどうしよ」
「頑張れよ~」
一哉は笑いながら肩をひとつ叩いて去っていった。
それから約束してたお礼のご飯に誘った。向かい合って話ができることが嬉しくて、俺はつい喋りすぎてしまった。夕夏ちゃんが時々ぼうっとしていることに気が付いた。視線を落としているのを見ると何か思い悩んでいるようにも見えた。
話しを続けながら、ふいに朝のネットニュースで見た水族館のナイトショーを思い出した。誘ってみると行きたいと言ってくれた。
夜の水族館は当たりだった。喜んでくれている姿にほっとしながら館内をゆっくり回った。色濃い青のなかでカラフルな魚達が泳ぐ水槽は特に気に入ったらしく、優しい目をして暫く眺めていた。その横顔に俺は隣で見とれてしまった。
それから数日して柳瀬さんの家へ食事しに行った。車を修理に出していた為その日は電車に乗って向かった。
リビングのドアを開けると夕夏ちゃんが座っていた。驚いていると柳瀬さんは隣に座ってと言った。突然会えて嬉しいのと隣に座るドキドキとで俺は頭が真っ白だった。20分程話していると蓮と捷さんが来た。蓮は前の席に車椅子をつけて座った。
蓮と一緒に食事ができる日が来るなんて少し前までは想像できなかった。こうしてみんなで集まって、笑い合って、懐かしい話をして、それに今は夕夏ちゃんもいる。
幸せだ、そう思いながら心に何かが引っかかっていた。蓮が手話をしながら話しかける先で優しい目をした女の子が笑っている。その特別な横顔をつい最近見たような気がした。
家まで送ってやる、そう言って捷さんは車に乗せてくれた。車椅子を収納する関係で俺は助手席に座った。
「楽しかったな。てか柳瀬の家って広くていいよな」
運転しながら捷さんが言った。
「はい、あの家めっちゃ快適そうですよね」
「うん。インテリアはあれくらいシンプルな方がかっこいい」
「あ、さすがデザイナーっすね」
「ははっ。俺は経営の方だから。てか夕夏ちゃんっていい子だな」
「そうですね」
「理久は初めて会ったっけ?」
「いや、何回か会ってます」
「へえ」
捷さんはバックミラーを見た。そして明るい声で言った。
「蓮、お前いいよな。あんな可愛い子紹介してもらって」
「……」
そのひと言に疑問を持った。
「あの子、楽しそうに手話してたじゃん。リハビリ頑張らないとな」
蓮の表情が気になる。俺はとんでもない誤解をしていたのかもしれない。




