2人③
目が覚めたら知らない部屋にいた。
病室だとわかるまで少し時間がかかった。なんだか頭の回転が遅い。それに、起き上がろうと思うのに体がついてこない。昨日は理久とラーメン食べに行ったっけ。それから家に帰ってDVDを観て……
あれ、なんでこんなところで寝てるんだろう。
暫くして看護師が入ってきた。目が合うと慌てて携帯電話を取り出してどこかへ連絡した。
「712号室の青谷さん、意識回復しました!」
意識回復?---
「青谷さん、ここがどこかわかりますか?」
病院。
「この指何本に見えますか?」
3本。
「私の声聞こえますか?」
聞こえてる。でも、声が出ない。病院にいる理由を聞こうとすると看護師が言った。
「あなたは長い間眠ってたんですよ」
あとから来た医者の説明によると、道で倒れていたところを通行人に発見されて病院へ運ばれ、軽い打撲はあったものの体内の異常は見つからず、約3年の間この病院で眠っていたらしい。
僕は話すことができず茫然を話を聞いた。他人の話でも聞かされているみたいだった。なぜなら僕としては普段通りに生活していた記憶しかないからだ。
「ご家族に連絡しますので、来られてから今後のことをお話ししましょう」
そういって医者は看護師と出て行った。
その日のうちに兄の捷が来た。看護師と同じように、信じられないという顔をした。なぜそれ程驚くんだろうと思った。確かに兄貴の髪型や雰囲気は少し変わっているけど、3年だなんて嘘だ。
医者は僕の体について、声が出ない、手足が器用に動かないのは長い間眠っていたことで体が一部の機能を忘れてしまっている状態なのかもしれないと話した。
その後は検査する日々が続いた。体が思うように動かないことで3年間を失ったという現実を思い知らされた。捻挫とか熱とかそんなものと同じように、不自由なのも数日だろうと思っていた自分を鼻で笑った。
「これ、お前の部屋から持ってきた」
兄貴は薄い箱を鞄から取り出してベッドテーブルに置いた。
「宝物だろ?」
「…」
それは高校の時、初めてもらったバイトの給料で買ったオイルパステルだった。その横にスケッチブックとウエットティッシュを置くと兄貴は言った。
「少しずつリハビリして、いつか事務所に戻って来いよ」
僕は返事の代わりにゆっくり瞬きをした。
「じゃ、俺は今から仕事して来るわ」
兄貴は笑顔で手を振り病室を出て行った。
きっかけは、書店に行った時だった。趣味・実用のコーナーに置いてあった色鮮やかな表紙に惹きつけられて手に取ったパステル画の本。中の絵を眺めてみて、これを使って絵を描いてみたいと思った。そして48色入りのオイルパステルを買った。
何を描こうか考えたとき部屋の棚に飾ってあるおもちゃのアメ車が目についた。それからはクラシックカーを描くのに没頭した。高校を卒業したとき、兄貴がパソコンを買ってくれた。独学でデジタルアートを学ぶようになって絵を描く手段をデジタルに変えてからこのオイルパステルは引き出しにしまったままだった。




