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出会い⑯

私は毎日ガジェットを読んだ。通勤電車の中、お風呂から上がった後、ベッドでウトウトとするまでの間。

物語は映画で展開を知っているうえでも面白い。でも、早く読み進めようとするのには別の理由があった。私は自分の感情に見て見ぬふりをした。

彼はボードを使うとき、まだ文字の位置をあまり把握していないのか迷いながら指している。そして時間がかかってしまうことに気を使っているようだった。私は彼が文字を指している静かな時間が好きだ。

けれど、時間が経つにつれて彼の顔には疲れが見えた。そのことが気になり、何かいい方法がないか考えた。ネットで調べた資料をプリントアウトしてクリアファイルに入れ、彼に渡してみた。

「指文字っていう手話なんだって」

資料には“あいうえお” から “わをん”までの表があり、それぞれの文字をあらわす手指の形がイラストで描かれている。

「結構面白いんだよ。たとえば、ひらがなの“め”は親指と人差し指で輪を作って目の形にするの。“ね”は指を広げて手の甲を前に見せると木の根の形」

手で形を作って見せると彼は笑ってくれた。

「私達が話すときしか使えないかもしれないけど、どうかなと思って。覚えなくてもいいんだけど…」

そう言うと彼はボードの文字を指した。

ゆ う か は も う お ほ ゛え た の ?

「一応ひらがなだけ」

し゛や あ お ほ ゛え る

「あ、でも無理しないでね。リハビリも大変だと思うし」

た ゛い し ゛よ う ふ ゛ 

お ほ ゛え た い


それから暫くしてまた会いに行くと、彼はすべての指文字を覚えてくれていた。指に力が入らない様子が時々あった、それでもほとんどの指文字が読み取れた。そして私達は指文字で会話をするようになった。

ある日、病院内に図書室があることを知って2人で行ってみた。彼が手に取った本を見ると、手話の辞典だった。そのほかにも数冊の本を選び、貸出の手続きをして病室に戻った。

お互いに指文字以外の手話も勉強した。わかる手話が多くなると自然と話題も増えて彼はよく笑うようになった。私はそれが嬉しかった。でもその反面、彼にあの人の姿を重ねすぎている自分に戸惑った。



「橋詰さんはどう思う?」

「…え」

安西さんは私の顔をじっと見る。つい、うわの空になってしまっていた。

「先輩話聞いてくれてなかったんですか?」

宮園さんは珍しく余裕のない顔をしている。

「ううん、ごめん。でもあんまり気にしなくていいんじゃないかな?向こうも疲れが溜まってるだけなのかもしれないし」

「そうだといいんですけど、前はもっと優しかったのになって…」

落ち込む宮園さんを観察しながら柳瀬さんはコーヒーを飲む。

久しぶりに訪れた柳瀬さん宅での焼肉、宮園さんがやけに大人しいことが気になった安西さんが「どうかした?」と声をかけたのをきっかけに、話は恋愛相談となった。

「この先長く付き合って、もっと冷たくされるようになったら私、耐えられない」

宮園さんは今にも泣きそうに声を震わせた。

「でも、好きなんでしょ?」

安西さんは優しく聞いた。

「好きです……」

とうとう宮園さんは涙を流し始めた。

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