出会い⑮
待ってるね
その一言で胸に温かなものが広がる。メッセージでやり取りを始めたとき彼は聞いてきた。
前に会った時どうして僕を見てたの?
知り合いに似てたからと答えると彼は、そうなんだと返すだけでそれ以上は聞かなかった。
土曜日の朝はいつもより目覚めが良かった。彼のお見舞いは午後から行く予定だ。布団を干して、洗濯機を回して、トーストを焼いて、いつもと変わらない休日の朝。でも、部屋の中にはあの頃の空気が漂っているような気がする。風で揺れるカーテンを見てベランダに立つあの人の姿を思い浮かべた。
病室に入ると彼のベッドには一冊の本が置いてあった。時間をはっきり言わなかったのもあって彼を待つことになった。話題にできればと思って買ってきたフルーツ大福の袋を棚に置いた。
棚の奥に本が立てかけてある。この間柳瀬さんが持ってきたのは3冊だった、ここには5冊ある。本のタイトルを見ていると気になるものがあった。
【ガジェット】
隆平と見た映画のタイトルと一緒だ。これが原作なのかどうか知りたい、そう思っていると彼が戻ってきた。
車椅子を押している看護師は前に充電器を持ってきてくれた人だった。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
「青谷さんのお知り合いだったんですね」
「…はい」
「今リハビリに行ってきたんですけど今日はもう検査もないからゆっくりお話できますよ。ね、青谷さん」
彼は穏やかな顔つきで笑った。私が立ち上がると彼は車椅子をつけ、曲げてある柵を掴んで立ち上がりベッドへ移動した。それを見届けると看護師は去っていった。
彼は袋に気がついた。
「これ、差し入れ」
フルーツ大福の箱を袋から取り出して棚に置いた。彼は布団をかけた膝の上にボードを置いて“ありがとう”の言葉を指した。
「甘夏とパインと苺の3種類にしたの」
そう言うと彼は文字を一つずつ指した。
ゆ う か ち や ん は と ゛れ か ゛す き ?
「私はパインが好きかな。ジューシーで美味しかったよ」
あ と て ゛た へ ゛る よ
た の し み
「ねえ、私のことユウカでいいよ。“ちゃん”って指すの面倒でしょ」
わ か つ た ゆ う か
彼は笑った。なんだか不思議な気持ちになる。
それから棚にあった【ガジェット】を見せてもらった。裏表紙のあらすじを読むと、やっぱりあの映画の原作だった。
彼はボードの文字を指し始めた。
き よ う み あ る の ?
「うん、最近この作品の映画観に行ったの。それで原作読もうかなって思ってたから」
え い か ゛に な つ て る ん た ゛?
そ の ほ ん か す よ
「え、いいの?」
い い よ ゆ つ く り よ ん て ゛
「ありがとう。蓮君は読み終わったの?」
う ん
まだ続きがあるのか彼はボードを見つめている。そして指を動かした。
れ ん て ゛い い よ
「…うん」
彼は少しの間私の目を見た。
「どうかした?」
な ん て ゛も な い
私は気になって聞いてみた。
「あのさ、私達って前にどこかで会ったことある?」
彼は首を傾げた。
わ か ら な い
「そっか。そうだよね」
彼は暫く考えるような顔つきでいた。この人は青谷蓮なんだ。




