「〜〜だけどもう遅い」と言いたい悪役令嬢♂実家から出ることすらできず、無事死亡
ローカル侯爵家では、当主とその妻が頭を抱えていた。
息子が、伯爵家出身の許嫁との婚約を破棄してしまったのだ。
ただの婚約破棄ならばまだよかった。たとえ、平民の女とデキたとしても、そこは、権力でどうにかなる。そうやって、今も我が物顔でふんぞりかえっている貴族は大勢いる。
しかし、ことはそう簡単ではなかった。
まず、息子には愛人がいないらしい。それ自体は面倒が減るので良いのだが、バカ貴族の婚約破棄の動機として挙げられる理由ランキング第一位が違うとなると、何が彼を婚約破棄に駆り立てたのか、非常に疑問である。
そこで当主は、息子に直接会って話を聞くことにした。
「儂は、今回の出来事を非常に遺憾に思う。ローゼリッタ伯爵令嬢は、非の打ち所がない、完璧な女性だったではないか。なぜお前は、そんな彼女との婚約を破棄したのだ。」
「はたして、理由を申し上げる必要があるのでしょうか。私が婚約を破棄した。それ以外に必要な情報がありますか、父上。貴族社会ではよくあることではないですか。」
「たしかにそうだ。しかし、お前は、自分には愛人がいないと言った。となると、ほかの貴族連中は、お前の婚約破棄の理由は、「バカ貴族の婚約破棄の動機第二位 好きだからこそ貴方に幸せになってほしい」になってしまうぞ。お前は前に、自己犠牲など反吐が出るわ、と儂の持っていたfa○eのシローくん人形を焼き払ったではないか。そんなお前は、よく知らない連中にそのように思われるなど嫌だろう?」
「分かりました父上。私の行動がそのように伝わるなど、まっぴらごめんです。お話しさせていただきましょう。このことは、くれぐれも他家に漏れないように内密に」
当主は、息子の言葉に息を呑む。これは、王国の未来に関わる大きな出来事だと、今までの経験から直感する。
「父上は、悪役令嬢ものはご存知ですか。」
「悪役令嬢もの?」
当然、国家の情勢に通ずる当主にとって、平民から貴族まで、幅広い層の中で流行する娯楽小説のジャンルを知らないなどありえない。それがどうしたのだと、息子の言葉を待つ。
「私は、その悪役令嬢なのです」
「は???」
当主は、厳つい顔に似合わず、奇妙な声をあげてしまう。
「お前のどこが悪役令嬢なのだ。誰にでも好かれる人当たりの良い好青年、少なくとも、第三者の目にはそう映っているはずだ(ま、儂等は騙されんが)。「悪役令嬢」とは、社会からの評価で決まる。お前が悪役令嬢ではないことは明らかだ。というか、そもそもお前は男じゃないか。」
「いえ、たしかに今までは、ただの公爵家のボンボンボーイでしかありませんでした。しかしながら父上、私には、悪役令嬢になる使命があるのです。物心ついた時から、そう悟っていたのです。」
当主は息子の正気を疑った。たしかに、頭のおかしい息子ではあった。二歳にして、側仕えのメイドや執事から自らの両親に至るまで、家の中にいる全員と脱衣麻雀をして回っていた。七歳にして、性病に罹った死刑囚を使って、デーモンと交配させたりしていた(ちなみに、デーモンは両性具有なので、死刑囚のペニーは切り落とした状態だったけど大丈夫だったZoy)。去年は、ノリで敵国に攻め込んで、単騎で勝利を掴んだ。
だが、ここまで論理性を欠いた行動は、初めてだった。いったいどこで、育て方を間違えたのだろうと、当主は現実逃避気味に考えていた。
「父上のおっしゃる通り、私は悪役令嬢にはなることができません。でも、悪役令嬢♂ならどうでしょう?それなら私にもなれるはず。父上も賛同してくださると思うのですが」
「お前の言いたいことはもう分かった。だがな、お前は悪役令嬢♂になって何をするつもりだ。これ以上我が家に迷惑をかけるのなら、お前を追放する「そうです父上!まさにそれです!!!」ことも辞さない…」
「私は、清廉潔白にも関わらず悪役令嬢♂というレッテルを貼られて家から追放され、「実は私がこの国の聖女♂で、私がいないために国が滅びかけて助けを求めてきたけど、もう遅い!」みたいなことを言いたいのです」
早口で喋ったためか、息が荒くなっている息子を横目に、当主は、
「(この世界のために、このキチガイは家に幽閉しとくか)」
と思うのだった。
連載せんけど評価クレメンス




