一年後のバレンタイン[1]
お久しぶりです。
アフターストーリーから約一年後の2月、ココとマトイのその後のストーリーにしばしお付き合いください。
「リアルで見たことないくらいかっこいい!」
「キュンってくる顔してるよね」
「でも、なんていうか――――ココとはカレカノっぽくないね」
仲良しのともだちから出たストレートな意見に、私はびっくりしちゃって、買ったばかりのチョコの袋を取り落とした。
「そ、そうかな?」
「ごめん、ちがうの! わるい意味じゃなくて、現実感ないくらい美形な彼氏だなって」
「もう。言い方!」
「ココ、ごめんーゆるしてあげて。お顔が天才って言いたかっただけだよね」
「ほんっとごめん!」
私は――どんな顔をしてるんだろう。
気にしないで、と反射的にこたえた私の足元で、マトイが紙袋を拾い上げた。
ぽんぽんと丁寧にほこりを払ってから手渡してくれたマトイの顔が、訊いてくる。『どうする? どう振る舞ってほしい?』って。
沸点の高いマトイらしい困り顔に、私はちょっと冷静になる。
「へへへ。かっこいいでしょー。私もマトイの顔だーいすき」
「惚気か!」
私の機嫌をうかがうように、おずおずと固まってた時間が流れ始めた。
ほっとした空気に、私は――どうしてだろう。マトイの肘を掴んだ。
「あの、よかったら彼氏さんも一緒にお茶しませんか?」
「それいい! ココと、今日ドーナツ食べていこうよって話してたんですよ」
みんな、気をつかってくれてる。
明るい誘いに、私も咄嗟に口角を持ち上げた。
「そうだね! マトイ、時間だいじょうぶ? せっかくだからみんなにマトイのこと紹介したいな」
「……ううん。ごめんね。今日はもう帰ろう、ココ」
「えっ」
私は思わずマトイを見上げた。
マトイが私に反対するのって、すごく珍しい。マトイはいつも私に甘いから。
マトイの明るい髪が、駅の蛍光灯にアンニュイに照らされてる。
「雪で道が悪いから、ココを迎えにきたんだ。だから、帰ろう」
クリスマスに背伸びしてプレゼントしたカシミヤのマフラーを巻いて、傘を一本だけ持ったマトイは、同級生を見た後だととびきりおとなびて見える。
私の中では百点満点だ。
いつもよりちょっと硬めにはにかんで笑う私のマトイは、くすぐったいほどいとおしい。
「……うん! そうするね。みんな、ごめん。今日は私抜きで――」
話しながら向き直ると、みんな、ぽーっとマトイを眺めてた。
ぎくりと胸が跳ねる。
「そうだね! それがいいよ」
「ココ、ドーナツはまた今度ね。明日いろいろ聞かせてよ」
みんな、私が気にしないように笑顔で手を振ってくれてる。
3人とも、仲良しのともだちなのに、私はちょっと気まずくて――みんなとおなじ高さで、手を振り返した。
「うん。また明日!」




