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心を明かし向き合うように

「俺、話したよね。ココが俺と同じ気持ちになって、人格ソフトウェア化プログラムが生み出されるのを止めてくれれば、それでもいいかもしれないって」

「わかってるよ。そのプログラムを作りたいとか作るのを止めたいとかって思っても、私にどれだけ影響力があるかはわからないけど、マトイのために頑張りたいなって思ってるもん」


 マトイと同じ目線の高さにして、マトイの反応を見逃さないように注視する。

 マトイの心配の種は、余さず私が引き抜いちゃうんだから。


「ココは本当に強心臓だよね。最初から落ち着いて俺の話を聞いてくれた」


 怖かったけどね、と内心独りごちる。

 最初のほうから、マトイは誘拐に成功して興奮してるようには見えなかったものね。

 どちらかというと、無表情で畳み掛けるように私を脅してきて……あれってわかりにくかっただけで、マトイが苛立ってる反応だったよね。怖い筈だ。

 誘拐犯を刺激せず出来るだけ仲良くして安全を確保しよう作戦が功を奏してたみたいでよかったよぅ。


「だから俺も、ココに賭けてみる手もあるかなって思ってたんだけど……」

「けど?」

「けどそれは、ココがプログラムが必要だと思っているか、ないほうがいいものだと思っているかによって、変わってくる。俺も、できればココにはつらい思いはして欲しくない。そのためにも、ココが心の底から、人格ソフトウェア化プログラムなんてものがなくなればいいって、思ってくれればいいと願ってる」


 そっか。マトイは恐れてるんだ。

 私に情報を与えすぎて、私と考えがずれていくのを警戒してる。

 私が平和的にマトイを幸せにして私の時代に帰りたいと思ってるのと同じように、マトイだってそう出来るように、考えてくれてたんだね。


「ココは今は俺としか話してないから、俺の肩を持ってくれてるんだと思う。だけど開発の経緯を詳しく知ったら、やっぱり必要だって言い出すかもしれない。俺はそれを許せない」


 許せないという強い言葉に、思わず目を見開いた。

 基本的には辛抱強くて感情表現の苦手なマトイの見せる、ほとんど初めての物騒な響きに心臓が跳ねる。

 だけど心の片隅が理解してる。

 マトイの告白は私に対して、すごーくフェアだ。

 どんな状況下にあってもマトイは、言うことも態度も、本当に正直な人だと思う。

 だから、怖くない。マトイはもう、私には理解できないミステリアスな誘拐犯なんかじゃない。

 それなら私も、思ったことをちゃんと伝えないと卑怯だよね。


「マトイの言ってること、わかるよ。でもあらかじめそのとき起こることを知っておかないと、いざ直面してみたら、私の気が変わっちゃうかもしれないんじゃない?」

「変わる?」


 思いもよらないことを言われたように、マトイが澄んだ目をまんまるにする。


「いや、変わるか。そうだよなぁ……」


 それから、丸まって頭を抱えた。

 また穴あきだらけの計画立てちゃってるんだね、マトイ。


「私が聞いたら、人格ソフトウェア化プログラムが出来上がるのを私が止めたくなくなるような経緯なの? マトイは知ってるの?」


 私の問いかけに、マトイが丸まったまま首だけ私のほうに持ち上げた。


「知ってる。思い出した。――――ココは、きっと気持ちを変える。俺はばかだ。最初から無理だったんだ、こんな成功パターン」


 一瞬にしてしょげてしまったマトイを、どうしたものか……。

 帰らせてもらって、人格ソフトウェア化プログラム開発を阻止するパターンがふたりにとって一番安全そうなんだけど、お互い納得してその結論に持っていける道はないかな。


「マトイ、もし私がそれで気持ちを変えるんだとしても、ここにいる間なら、どうしたらいいかっていっしょに考えることが出来るよ」

「それ考えて、ココに何かいいことある?」

「だって、私の未来にも関わるでしょ。ふたりで考えたほうが、ひとりよりもきっと、いい案が出るよ」


 マトイに拒まれたらどうしよう。

 時計の音ひとつしない部屋ルームで、じっとマトイの反応を待っていると、マトイが膝に頭をつけるくらいにぺったんこになって、大きくながーい溜息をいた。


「わかった。いっしょに、考えようか」

「そうこなくっちゃ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] きっと過去に戻るであろうココちゃんが、どういう人生を歩むのかとても興味深いけれど、少なくとも今はココちゃんとマトイさんは、相談もできる何でも話し合える仲間(友人?)のようにも感じます。
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