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僕はパセリ、残す人が多いからと定食をクビになったけど、僕が抜けた瞬間に定食屋が経営危機に?戻って来てと言われてももう遅い!!

 「パセリ、いきなりだがお前は、このパーティから抜けてもらう」


 「いままで、ご苦労だったなぁ」


 僕の所属していたパーティー『焼き魚定食』『ハンバーグ定食』

 それぞれのリーダーから、突然言い渡された言葉に、僕は言葉を失った。


 それでも、ようやく絞り出した言葉を、震えた声で口に出す。


 「そんな……2組同時にクビなんて……いったいどうして……」


 長年一緒にいたパーティに対してやっと口にした言葉。

 それなのに焼き魚もハンバーグも大声で下品な笑い声を上げる。


 2人だけじゃない、ライスや味噌汁まで笑い出した。


 

 「どうして? 自分で分からないのか? 無能な上に馬鹿だなぁ」

 ハンバーグは、まだ腹を抱えている。


 

 「お前、今週だけで何人の客に残されてると思ってるんだ?」

 

 焼き魚の方は、少しは笑いが収まったようで、ハンバーグよりは話が聞き取れた。



 「おい焼き魚、そいつは質問が悪いぜ。

 

 こいつの場合は『何人に食われたか』を数えた方が分かりやすいからなぁ!!」



 ハンバーグの話に、またパーティの全員が笑い出す。

 悔しいけど、言い返す言葉がない。


 僕は、いままで何人もの、お客様から残されてきた。

 フードロスが問題となっている現代では、クビになっても仕方がない。


 

 「……分かったよ、今までありがとう」


 僕は定食屋を、静かに出て行った。



 「せいぜい、他では迷惑かけないようにするんだなぁ!!」


 「おいおい、ハンバーグ、そいつはかわいそうだぜ。

 無能なパセリに『他』なんて、ある訳ないからなぁ!!」


 定食屋から出たのに、聞こえるようなデカい声だ。

 わざと聞こえるように話しているんだろう。

 情けなくいて、悔しくて、僕は涙を流した。


 

 (確かに、お客さんは僕を残すけど……

 何年も一緒にいたのに、あんな言い方しなくたって……)



 

 

 

 *****





 それから数か月後。

 僕は福祉施設の、施設給食のパーティに入る事が出来た。



 「トメさん、パセリも食べましょうねぇ」


 「少し苦くて苦手じゃが、栄養たっぷりじゃからなぁ」


 施設職員の箸から、僕はトメ婆ちゃんの口に入った。

 定食屋では、残す人ばかりだけど、ここでは味だけでなく栄養や健康面が評価される。

 

 たくさん食べれないお年寄り達にとって、一口だけでも、かなりの栄養があるパセリは、貴重なビタミン源となっていた。



 *


 

 「パセリ君、今日もありがとう!!」


 「君が来てくれてから、この施設の人たちの免疫が上がって、検査の数値も良くなっているんだ!!」


 施設給食のメンバーからは、毎食感謝される。

 定食屋にいた頃には、無かった事だ。


 「そっそんな……たまたまですよ……」


 ここに来てから、日が立っているのに感謝されるのは未だに慣れなくて照れくさい。


 「そんな事は無いさ!!

 僕みたいな魚は、栄養はあっても、毎日だと飽きられてしまうからね。

 パセリ君みたいに、付け合せで出せて栄養のある食材は本当に助かるよ!!

 これからもよろしくね!!」


 「はい!!」


 一生このパーティにいよう。

 僕は、改めてそう決心して、この日の仕事を終えた。


 

 

 

 *****




 「面白かったなぁ、『キャベツの刃。千切り列車編』

 レンコンさんのシーンは感動して泣いちゃったよ……」


 いつも、僕はまっすぐ家に帰るんだけど、この日は楽しみにしてた映画の公開日。

 ネットでネタバレを見るのが嫌だったので、どうしても初日に見たくて、仕事帰りに映画館に行ってしまいました。


 「あっ……」


 せっかく、映画を見ていい気分だったのに、見たくない物が僕の目に入って来た。

 前にいた定食屋だ、すぐにでもこの場を離れたかったけど、なんだか違和感を感じて、立ち止まってしまいました。


 「あれ? 定食屋? こんなにボロボロだったっけ?」


 定食屋は潰れては、なさそうだけど、僕がいた頃とは似ても似つかない程にボロボロになっていた。


 「いったい何が……」


 さっきまでは、すぐに立ち去りたかったはずなのに、そんな気持ちは、どこかへいってしまい、僕は好奇心に支配されてしまっていた。



 窓から定食屋の中を覗き込むと、ハンバーグ定食と焼き魚定食が、暗い顔でふさぎ込んでいるのが見えた。

 驚いて、立ち去ろうとした時、ハンバーグ定食と目が合ってしまった。


 すると、すぐに定食屋のドアがガラガラと音を立てて開き、ハンバーグ定食と焼き魚定食のパーティメンバーが飛び出して来た。


 「パッパセリ!!」


 「頼む!! 戻ってきてくれ!!」


 痩せ細ったメンバーたちの、深々と頭を下げる姿に、僕はクビを言い渡されたとき以上に驚いた。


 

 僕を食べてくれる福祉施設の、トメ婆さんや、感謝してくれるメンバーを捨てて、ボロボロの定食屋に戻る理由は無いけど、話だけは聞いてみる事にした。



 

 *




 ハンバーグの話では、僕がいなくなった後、ブロッコリーが新しくパーティに加わったらしい。


 ブロッコリーは、バターで焼くと子供にも人気だし、ハンバーグにはピッタリだ。

 僕のような苦いパセリと違って、フードロスになる心配はなさそうに思った。


 

 「そうだ、確かにパセリ……パセリさんと違ってブロッコリーはきちんと食べられていた」


 「だったら、問題ないじゃん!!」


 ハンバーグの話が見えて来なくて、僕は少し気が立ってしまった。


 「パセリさん、問題はそこではありません。

 ハンバーグさんに、バターで焼いたブロッコリーは相性抜群です。

 しかし、私にはどうでしょう?」 

 

 口を挟んできたのは焼き魚だ、前はもう少し強気な口調だったが、すっかり覇気のない話し方になってしまっている。


 「まぁ、焼き魚には合わないかな?

 それならサラダとか、他の料理にすればいいじゃないか!!」


 僕の口調はいっそう強くなってしまう、クビになった時の嫌な気持ちを思い出してしまったからだ。


 

 「店長さんも最初はそうしました、しかしサラダにすると別に皿も食材も欲しくなる。

 それにより、コストが増えてしまったのです。

 小さな店の定食では、値上げもできません……」


 焼き魚の声は、どんどんと小さくなってきている。


 「それだけで、こんなに?」


 状況に納得すると、僕の怒りは少しは収まってきた。


 「それだけじゃねぇ、サラダで増えた皿を洗ったり、定食ごとにブロッコリーの調理法が違ったり……

 これで人間の仕事が増えて『働き方改革』とかいう法律に触れちまったんだ!!」


 ハンバーグは、昔と口調こそ変わらないが、泣きながら机を叩く姿など、想像もできなかった。


 「お前……パセリさんなら、どんな料理でも添えれば完成で人間の手間はかからねぇ!!

 頼む、この通りだ、戻って来てくれ……」


 「戻って来てくれ?」 

 

 頭を下げるメンバーたちを、気が付けば僕は見下ろしていた。


 「あっ、いや……戻っ来てください」


 言い直し、再び頭を深々と下げるハンバーグ。

 焼き魚や他のメンバーも、釣られたように、お願いしますなどと頭を下げ直したが、僕の答えは変わらなかった。


 

 「もう遅いよ」


 

 僕は定食屋のドアを強く閉めて、この場を後にした。






 *****





 パセリが出て行った後、少しの間、定食屋の中は静まり返っていた。

 その静寂はハンバーグが破った。


 「なぁ……焼き魚、悪いのは俺たちなのかな?」


 「はい?」


 「確かに、今の状況はパセリをクビにした俺たちの責任……

 だが、クビにしなくても、あいつは人間に食べられず、皿に乗ってるだけの野菜だった」


 「そう……かもしれません」


 「人間が……パセリを粗末にしなければ、こんな事には、ならなかったんだぁ!!」


 ハンバーグの叫び声が、商店街に響き渡った。

 読んで下さりありがとうございます。


 少しでもクスリときたら、ブクマや評価して下さると嬉しいです。


 連載中のローファンタジーは真面目に執筆していますので、そちらに飛んでくださると泣いて喜びます。

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