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【電子書籍化:WEB版】ハズレの森の魔法使い。〜婚約破棄された令嬢が、最愛の人と再び出会うまで〜  作者: 枢 呂紅
5.もう一度、君と出会うなら

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1.救出作戦、始動しました。



 滝から飛び出した大蛇の鎌首が、虚を衝かれて動きを止めたグレイフィールを呑みこむ。


「グレイフィール!!!!!」


 リオの悲鳴がウィーネの滝に響き渡った。


 飛びずさり、距離を取る。そうやって改めて現状を確認し、リオは焦った。目の前には、巨大な水柱が立っている。中に取り込まれたグレイフィールの姿は見えない。そのうち、水柱が下から順番に凍り付き始めた。


(グレイフィールは不死身。ですが、氷漬けにして眠らされれば……!)


 覚悟を決め、リオは右手を突き出す。手のひらの先が輝き、光の玉が浮かぶ。そうやって武器を取り出そうとしたその時――、水柱がはじけた。


 水の大蛇の腹のあたりが裂け、宙に浮かぶグレイフィールの姿が露わとなる。息を呑んでリオが見上げるなか、揺れる黒髪の下で金色の目がゆっくりと開く。


「――僕を狙ったな」


 腹を裂かれた大蛇が、叫びながら滝壺に崩れる。けれどもすぐに、大蛇は長い体をひねると、再びグレイフィールへととびかかった。


 だが、その牙はグレイフィールには届かなかった。グレイフィールが右腕を突き出し、彼の背後に魔術陣が展開される。次の瞬間、黒い影の刃が、幾重にも大蛇を突き刺した。


 断末魔を上げ、蛇が天を仰ぐ。その一拍後、大蛇の身体は崩れて大量の水が滝壺に降り注ぎ、ついには沈黙した。


「グレイフィール! 無事ですか!」


 何事もなかったかのように水面に降り立つグレイフィールに、リオは駆け寄る。そんな弟子を、グレイフィールはいつも通りの涼しい顔で見下ろした。


「飲み込まれて分かった。今のは、カルヴァスが組んだ術式だ。魔力を流すと発動し、術者を攻撃する仕掛けになっていたみたい。僕らはまんまと、トラップに引っかかってしまった」


「そんな……。なぜ水晶塔の長が、我々に攻撃を?」


「カルヴァスは関係ないと思う。見てごらん」


 言いながら、グレイフィールは手のひらサイズの球体を渡す。先ほどの大蛇の、核となっていたものだ。グレイフィールの影に貫かれて割れたそれを、慎重にリオが受け取る。しばし目を閉じて考え込んで、優秀な弟子は頷いた。


「……確かに、術式の型は水晶塔の長のものですが、くみ上げ方に荒さがあります」


「おそらく弟子たちが、カルヴァスの編み出した術を教本に自分たちでくみ上げたんだろう。それに確か、カルヴァスはまだ、瞑想から戻ってきていないはずだし」


 前にエルミナが言っていた。カルヴァスはエルミナとは違った形で、魔術の真髄を追及している。そのため、彼は定期的に水晶塔の深部に籠り瞑想を行うのだ。瞑想は数年にわたり、その間彼の身体は仮死状態になる。エルミナによれば、カルヴァスは聖女マリナが召喚される半年ほど前に瞑想に入ったまま、まだ目覚めていない。


 けれども、だからこそ謎が深まる。カルヴァスはその通り名にたがわず、水晶塔の指導者だ。その指導者が不在の中、水晶塔の魔術師たちがグレイフィールに攻撃を仕掛けてきた。


あれだけ大掛かりな術式を仕掛けてきたということは、関わっているのはひとりふたりではない。おそらく敵は、水晶塔全体だ。


その指揮をとっているのは誰だ。カルヴァス不在の中、水晶塔の魔術師全体を動かし、あまつさえ三大魔術師のひとりであるグレイフィールに攻撃させることが出来るような権限を持つ者など……。


 そこまで考えて、グレイフィールは息を呑んだ。隣で同じ結論にたどり着いたらしいリオも、顔を強張らせてグレイフィールを見上げる。


 無言でグレイフィールはリオの手を摑み、ただちに屋敷に跳んだ。


 ――予想した通りだった。ウィーネの滝に満ちていた魔術痕を隠れ蓑にしたのだろう。グレイフィールが張っていた結界は破られ、屋敷にも庭にも襲撃の大きな傷跡が残っていた。


 その最もひどい場所に、ネッドはいた。


地面から突き出す水晶に体のあちこちを貫かれ、ネッドは完全に沈黙している。その酷い有様に、思わずリオが立ち止まり口に手を当てる。


グレイフィールは表情を変えず、まっすぐにネッドのもとに足を進める。近づけば、彼の体から血のように黒い影がしたたり、水晶を伝って地面に落ちているのがわかった。


その麓に立ち、グレイフィールはネッドを見上げた。


「ネッド。生きてるんでしょう」


 しばらく答えはなかった。やがて、まるで死体が蘇り動き出したかのようなぎこちなさで、ネッドの目がグレイフィールをとらえた。


「……なんとか、ね」


 苦しげな中にも苦笑を滲ませて、ネッドは弱々しくウィンクをした。


「はや、く、治して、よ。あの、ふざけた、聖、女のこと、ほうこ、くする……から、さ?」






 ――そうして今、グレイフィールは水晶塔の正面にいる。


「ハズレの森の魔法使いだと……!?」


「死んだんじゃなかったのか!?」


 水晶塔の魔術師たちが、何やらわあわあ叫びながら慌てて駆けていく。おおかた、グレイフィールがすぐにウィーネの滝から転移したせいで、グレイフィールが絶命したことにより魔力反応が消えたと勘違いしたのだろう。


 向こうも、始末したはずの三大魔法使いが乗り込んできたことで半狂乱だ。統率もとれずに、てんでばらばらに魔術を放って攻撃してくる。だが、その大半はグレイフィールの張った結界によって弾かれる。


 そんな中、一際大きな稲妻が、グレイフィール目掛けて炸裂する。けれどもそれは、結界に届くより先に巨大な鎌によって弾き返された。


「ねえ、主。ひとつ言っときたいんだけどさ」


 くるりと鎌を回して再び構え直し、ネッドが苦笑いする。


「俺、気のせいとかじゃなければ、さっきまで死にかけてたんだけど」


「今はもう壊れていないでしょう。穴も全部塞いだし、なんなら強化したよ」


「いや、そうだけど! さっきまで瀕死の重症だったいたいけな弟子を、いきなり戦闘の最前線に置くって、ちょっとドSが過ぎない!?」


「仕方ないよ、ネッド」


 表情を変えず、グレイフィールはすっかりぴんぴんした様子の弟子の背中に視線をやる。そして、なんてことのない風に頷いた。


「いまの僕が攻撃を担当したら、水晶塔ごと壊しちゃいそうだ」


「うわぁい、主ってば今日もうっかりさんっ。って!! うっかりさんの域超えてるから!? なんなの今日、バイオレンスなの!?」


「ネッド、うるさい!」


 新たに飛んできた稲妻を同じく鎌で弾き返しつつ、リオが怒る。

 

 静かに佇むグレイフィールを背中に、リオとネッドが前に進み出て、それぞれに鎌を構える。慌てふためく水晶塔の魔術師たちを前に、リオは真剣に、ネッドは不適に、それぞれ表情を引き締めた。


「行くよ、二人とも」


 グレイフィールの金色の瞳が輝き、艶めく黒髪、そしてローブがふわりと膨らむようにして揺れる。まさしく魔法使いの名に相応しい、膨大な魔力風を身にまといつかせ、グレイフィールは静かに宣言した。


「--僕らのセリーナを、取り戻す」



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