大学助教授奏
それから記憶がない。
「なにか思い出した?」
小さい方の少女が訪ねてくる言えない。まだ穢れをしらない少女に百合の世界の事なんて言えるわけがない。
「ううん、何も思い出せないかな。」
「思い出せないならしょうがないわね。まだ記憶が混乱してるのかも知れないし、でも身元が分からないなら不用意に動かないでね、私もあんまり手荒な真似したくないから。」
「分かった。」
あまりの迫力に奏は気おされてしまった。
「とりあえず、自己紹介といきましょうか。私の名前はクロエ、こっちは妹のアリー、あなたの名前は? 」
「私の名前はクロエって言います。大学の南上大学助教授をやってます。」
「大学?、助教授? 聞いた事ない言葉ね。どういうものなの。」
え、大学とかを知らない。相当な田舎だろうか?
「あの、大学というのは社会になる一歩手前の人が学問を学んだりする場所で助教授ってのは大学に勤め る研究者の事です。」
「大学は今一つよく分からないけど。助教授ってのは学者の事かしら。」
「それに近いと思います。」
「ふうん、なるほどね。それにしてはこの村では見たことないけどさっき言ってた大学という組織の人間 なのかしら。」
「そうですね、そう解釈してもらっていいと思います。あの、ところでここはどこですか?」
すっかり忘れていたが自分がなんでここにいるのかが分からないんだった。奏はホテルにいたはずだった。にも関わらずなぜか今は一軒家にいるのだ。そのうえ、さっきまでは雪山にいたという気味が悪いに決まっている。
「ここは学者の村ラゴーだけど。」
「ラゴー? 」
なんだとても日本とは思えない地名だなと奏は思った。
「あの、一応聞くけどここ、日本だよね? 」
「日本? 何それ? 」
「え、日本を知らないの? 」
日本を知らないなんて、からかっているのかなと奏は思ったが2人の顔を見ると、とても冗談を言っている様には言えなかった。
「日本ってのはどこにあるの、もしかして海外とかかな。」
「海外か、まず日本って国の名前なんだけど。」
「そうなの、ねえ、お姉ちゃん、大陸にそんな国会ったけ?」
「知らないわ、どこか遠くの大陸かしら。この世にはまだまだ未開の地が多いからね。」
未開の地が多い? 今の時代に未開の地なんてそもそも存在するかどうかすら怪しいのに。なんだか全く話が通じないなあ。まるで部族かなんかと話しているような感覚に奏はなっていた。
しかし、それにしては奏が普段見る人達と変わらない服装に家、いや奏が普段見ているのとは違う、どちらかといえば中世風の衣装にレンガの家といった感じだった。
「ちなみにここなんて国か分かる? 」
「分からないなあ。ここはエルピア国。大陸の西の端にある国だよ。」