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爆弾発言

目が覚めると見知らぬ部屋で熟睡していたらしく我ながら神経の図太さに生まれて初めて気付かされ。

着替えようとTシャツを脱いだ時にいきなりドアが開いて驚いてシャツで胸元を隠すと女の人が顔を出した。


「ハルちゃん。朝ごはん、ん?」


栗毛色の綺麗な髪のハーフぽい顔つきで確かカフェの店員さんだったと思う。

その人の顔が固まりやがてゴゴゴゴゴゴと言う擬音と共に般若の様な顔になり階段を駆け下りる音がしたら男の人の絶叫が聞こえてきて。


「ギブ! ギブ! ノー! チョーク! チョーク!」


着替えて慌てて階段を駆け下りつと修羅場だった。



あまり関わりたくない組合にいつものように顔を出すと頭を悩ます事例が二件も起きていた。

一つはあまりにも香ばしすぎてもう一つはあまりにも寒すぎる案件で。

どちらも無理ゲーでスルーするに越したことがないのは確かだ。


帰り道でナンパイベントが発生していて様子を見ているとちょっと強引過ぎだろう。

このテリトリーでの問題はある意味自己処理しなくてはならず取り敢えず首を突っ込んで後悔することになるとは思わなかった。

向こうが飛び込んできたのかこちらが巻き込まれたのなんか関係ないことだと思いやり過ごそうと思ったのに切り捨てることなんか出来ない。

取り敢えず問題を先送りにして対処しようと思ったのに。



職場であるカフェのソファーで寝ていると強烈な一撃を内蔵に喰らい、翻筋斗打って目を開くとスニーカーの踵が腹に食い込んでいてその先には綺麗な足が。

視線をずらすとオーガなんて霞むくらいの般若が仁王立ちしていた。


「お。おはよう。リーファ」


「…………」


「朝ごはんはまだだけど」


ボストンクラブからのキャメルクラッチなんて流れるような連続攻撃から何とか逃げ出せたのに襟首を掴まれ次の瞬間には卍固めを決められていた。


「ギブ! ギブ! ノー! チョーク! チョーク!」


「マジ、卍。ガチ、卍」


聞きたくもない冗談を釣り上がった口からリーファが吐き出し。

そこに一晩だけという約束を取り付けた彼女が顔を出し。

ひとまず開放されたが昇天寸前で朝食を作らされる羽目に。



「で、ハルはどうするんだ?」


一通り事情を説明したにもかかわらず不機嫌そうな顔をしながらコーヒーをドリップしながら理解不能な事をリーファが聞いてきた。

で、どうするんだと聞かれ何と答えれば良いのか。

事情は説明したよね。

一晩だけの約束だって。


「だからハルはどう責任を取るつもりなんだ。ああん?」


「説明したとおり泊めただけだ。疚しい事はなにもない。それに常連さんだぞ」


「はぁ? こんなビッチな常連なんか知らないけど」


仕方なく昨夜の組合で聞かされた凍てつきそうな案件の資料を表示したスマホをカウンターの方に滑らせるとリーファが手に取り固まっている。

そりやそうだろう。関わりたくないナンバーワンだからね。


「清楚系ビッチ?」


「そっちじゃねえよ」


彼女が良く店に来ていた時は日本人らしい黒いロングヘアーで黒縁のメガネだった。

それが今や金髪のギャルになっていて変わらないのは制服だけだろう。


「本当に何もなかったんだろうな」


「わ、私。初めてだから少し優しくしてもらいたいななんて思ったんですけど」


「それじゃ覚悟だけはあったのね」


「はい。色々あって死ぬ勇気は無かったのですけど」


「そんなのは勇気って言わねんだ。それだけは覚えておけ」


リーファの迫力に彼女が押し黙ってしまった。

全否定しようとしたのにカミングアウトするにしても今じゃないでしょ。

『出来れば住み込みで働かせて下さい』か、今朝一番の爆弾発言だった。

ヘタレだの駄犬だのと罵られトラウマのイヌミミまで付けられてゴリゴリと削られ大事な何かが抜けていきそうなのに。

リーファがお姉ちゃんに任せとけばりに仕切っていく。



「高校生だよね。学校はどうするつもりなの?」


「出来れば卒業したいけれど。無理なら辞めて働きます」


「一度始めたことを投げ出すような真似は一切認めない。ここから学校に通うつもりがあればバイクの免許でも取ること。研修期間は一ヶ月間」


『頑張ります』か。

リーファが出した条件に彼女は一度も見たことがない笑顔で帰っていった。

こんなクソゲーみたいな世界にぼっちで投げ出されたらどうする。

俺に向けて放ったリーファの止めの一言だ。

瓦礫の世界に放り出されても仲間がいたからどうにかなったのだし。

手を差し出すことが出来るのは誰でもない。

覚悟を決めるのはどうやらこっちらしい。


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