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04入学の準備

 早いものでリーシャたちは八歳となった。

 えっ、マギー? たぶん二十歳だけれど自分で計算してくれるかな。

 四人は現在ミルストイ学園への入学準備に真っ盛りなのである。

 なんでも話に()ると学園初日の授業として模擬社交の立食会が(もよお)されるのだとか。

 だからそれに合わせて新しい礼装の準備をするとか、普段着でも学園が基準となる色合いや丈を推奨しているので厳選するなり買い足すなりするとかが数日前から始まっている。

 その上ミルストイ学園は、ラギストア帝国の首都リーシャンハイスから百kmほども離れた山山の(ふもと)()るため、入学する学徒は全て学園内の寮で生活しなくてはならなかった。

 従者の随伴(ずいはん)は許されているからまだ安心だけれど、入寮してから足りないものが出てきても困る。

 とかく用意するものは多く今日はそれら注文の荷物が一斉に届くのだ。

 とは()うものの、(ほとん)どマギーや専属の侍女たちがやってくれるのだから、本来はなんの問題も無い。それでもリーシャたちはなぜか気が気でないらしい。


 いや、そもそもなにゆえグラダード家の邸宅に皆が集まり、この準備が(おこな)われているのかが(はなは)だ疑問でならない。

 そんな思いで(いぶか)しげに様子を(うかが)ってみれば、邸宅の一室には先ほどから寮へ持って行くための荷物が次次引っ切り無しに持ち運ばれてくる。

 ふむ、この辺りの考え方は文官ならではのものでなかろうか。

 商人に(まと)めて一箇所の邸宅へ運ばせ、侍女たちが分担し(まと)めて確認する。

 そして全て(そろ)えば、その時点で(まと)めて寮へ運ばせるという効率重視なのである。見栄(みえ)とか差別化とかは要らないのであろう。

 勿論(もちろん)、安くつくし()しなにかあれば四家の信用を失ってしまうから、商人たちは確かな仕事を心懸けてくれる。

 多少四人の荷物が入れ違えになったとしても侍女たちのやり取りですむし、四家の目で必要なもの()らないものを確認するのだから間違いも少なくできる。

 だから数日前に(おこな)われた礼装や普段着の注文でも四人(そろ)ってであった。


「あのねマギー、メルペイクに付ける従魔の飾りどれが良いかな?」


 早速リーシャは邪魔をする。本人は色色と甲斐甲斐(かいがい)しく準備を手伝っている積もりなのだから始末が悪い。

 それに比べるとチェロルなんて大人しいものである。メルペイクが邪魔をしないようにと後ろから抱きかかえて、いや(うず)もれて幸せそうだ。

 はて寮に動物を連れ込んでも良いのだろうか? と、そんな疑問が(よぎ)るかもしれないけれども、実は既に前例があったりする。

 それは帝国初期の時代に(さかのぼ)る。帝国に併合された元王族の子息が護衛の従者だと()い張って、強引に従者と共に寮へ随伴させたのが方策として(なら)わしになったとか。

 だから自然と、いや慣例として入学する学徒は従魔を“護衛従者”という位置づけに称して登録している。


 従魔? メルペイクのことだね。

 この世には気や魔気がありとあらゆる場所に満ちており、それらが(よど)み濃い魔気溜まりとなった場所が世界には幾つも点在すると()う。

 その魔気溜まりに生物や死体が数年単位で影響を受けると大異変を起こし魔に転ずると()う。

 それを人人は魔落(まらく)と呼ぶ。

 生物の魔落は総じて巨大化する傾向にあり、比例して頭脳が発達するのかは不明だけれども、ともかく人の言葉を解するものも出現する訳なのだが。

 当然、魔落であれ野生であれ人であれ人人の害となるものも()れば、友好関係や利害の一致から共存できる魔落も存在する。

 その人ともに共存する魔落を従魔と()う。


 さて、どこかの誰かさんは小さな(ひな)鳥を助けたときに心配で心配で、何度も聖光を掛けたのだとか。

 さらに様子がおかしいなどの些細(ささい)な事があるたびに心配しては、また聖光を掛けたのだとか。

 そして一年という短い時間で立派に大きく育ったのだとか……。

 大人たちも小さな動物に聖光を掛け続けると魔落ちするのかと感心していたぐらいだ。

 聖光が原因してか、それとも聖光が気と同じく影響したのかは定かで無い。



「そうですねぇ、メルペイクは飛びますから余り重いものも良くありませんし、飛んでいる時に光り物があると他の鳥に襲われる……まあ、それは無さそうですね。これなんてどうですか?」


 マギーが進めるのは足に付ける小さなもので、従魔の印が(わか)るだけの簡素な作りであった。


「これなら飛ぶのに邪魔にならないねっ!」


 と言い放つのはメルペイク大好きなチェロルだけれども、実は二年ほど前にちょっとした事案をやらかしている。

 それは首都リーシャンハイスの()ぐ東にある大陸一の湖、スイタルへ四人が遊びに行ったときのことだった。

 いつもの(ごと)くメルペイクと一緒に行動するチェロルだが、今日はなにやら熱心に教えており「ばたばたー」と掛け声を聞くと羽ばたく段取りらしい。

 そしてチェロルはメルペイクの足を(つか)み「ばたばたー」と叫んだら浮き上がり、そのまま掛け声を繰り返すとあっと言う間に空高く飛んで行ってしまったのだ。

 それを見ていたチェロルの侍女アイラさんはぺたりと座り込み泣き出す始末。

 異変に気付いたマギーが、メルペイクに直接【念話】の御業で指示を出し()ぐに降ろせて事なきを得たけれども、二度とこんなことはしないようにと眉をハの字にさせたマリオン先生から、厳重注意が入ったのは仕方なかろう。

 その後、なぜか昔を思い出したらしく死んだ魚のような目をするマリオン先生であった。


 話を戻すと、先ほどの発言を()いて疑いの目を向けるアイラさんの行動は仕方ないことなのだろう。


 そうそう、他の二人はどうしているのかといえば、勿論(もちろん)届いたばかりの衣装箱を目聡(めざと)く見付けると。


「私たちが確認しますのよ!」


 と言いつつ手を掛けようとしていた。

 そんな時である。


「ほら、お嬢さん方、こちらは良いから今日も訓練始めるよ」


「はい! マリオン先生」


 やる意義を見出(みい)だせなかったティロットは(ただ)ベイミィに付いて(まわ)っていた(ふし)がある。マリオン先生が現れるやいなや元気よく返事をした。

 突然と現れたマリオン先生は本来の予定では、今日は忙しくなりそうだから訓練は()めておきましょう。という話になっていたのであるけれども、急遽(きゅうきょ)四人のお邪魔虫対策で呼び出されたのだ。


 マリオン先生は、この三年で自分の持つ技や知識をできる限り教えてきた積もりであった。

 だが当然それでは足りない。ちゃんと学園でも学べれば良いのだけれどと心配する。

 しかし、こればかりはミルストイ学園の指導教諭に任せる他ない。


「ではいつも通り準備運動からね」


 それでも三年は教えてきたのだから、(かた)を覚え体幹を鍛えあらゆる基礎を身に付けることで、心象と身体(からだ)の動きを一致させ思い通り動かせる身体(しんたい)制御は身に付けられたはずである。


 その足(さば)きがあれば容易に相手の肉へと食い込むだろう。

 その腕の振りは相手を近寄らせること無く吹き飛ばすに違いない。

 あっ、チェロルが転がってゆく。まあ、慌ててアイラさんが追い掛けていったから大丈夫だろう。

 その(くちばし)は容易に相手の急所を……誰だよ! メルペイクに武技を教えたの……。



 リーシャの剣技はティロットには敵わないまでも、同年代では高い技術を身に付けることができた。

 だが、やはり身体を()かせると()えば長刀(なぎなた)の武技だと考えられる。

 そして、騎士であれば馬上の戦闘もあるだろう。

 リーシャとしても一番使い勝手が良いのが長刀と()えるし、速度の乗った馬から長刀(ちょうとう)の武器類を振るうのは【強骨】の御業があればこその威力を発揮するのだから。

 また、長刀を相手にした時は大概のものが懐へと入ろうとする。

 だけれど、それ自体が難しいことだから縦令(たとえ)懐に入られたとしても、それは無理な体勢を余儀無くされており、リーシャは【強骨】を()かした体術で優位にけりを付けられるはずである。あっ、字は蹴りじゃないけれども体術は蹴りも使うのかな。

 これらはマリオン先生の構想なのだが残念ながら()だ体格ができ上がっていないし、長刀は教え始めたばかりなので成果の程はこれからである。


 ティロットは剣技を中心とし熱心に訓練しているのだけれど、最近はリーシャと共に槍の武技も習い始めていた。

 体を壊さない使い方であれば【強肩】の御業が()かせるというマリオン先生の持論からである。


 ベイミィとチェロルは二人とも【器用繊細】があることと、黙黙と訓練するよりかは誰かと共になにかをすることが今はなにより楽しいらしい。

 剣技も武技もそれなりに(こな)す二人は、細かい技術も含めた習得数の上では一番高いと()えるだろう。



 ミルストイ学園には騎士となるための教育課程もあるという。リーシャとティロットの目標は着実に歩みつつあった。

 ベイミィとチェロル二人の目標は? ()かないでくれ(たま)え……。


---


 昔、悪鬼の三女傑と恐れ語られる騎士たちがいた。

 帝国騎士団では今でも残るほど有名な語り(ぐさ)が幾つもある。


 それはマリオンが近衛(このえ)騎士の時代に【火】と【氷】の御業を得意とする二人が加わり、常に三人で行動を共にしていた頃の話である。

 勿論(もちろん)、本人たちはその三人では無いと言い張るだろう。

 恐れられたのは、マリオンが砂糖を空中に散撒(ばらま)きそれに火を放って粉塵爆発を起こさせるという過激な戦闘手段を持つが所以(ゆえん)だろう。

 また、氷の息吹を作りマリオンの【寒耐性】の御業で強引に詰め寄って制圧なんてことも演習でやらかしていたらしい。

 

 まあ、余談である。



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修正記録 2018-03-28 18:19


「の従者だ」追加


読点の追加


「従者」追加


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修正記録 2018-03-28 10:53


盛りだった。 → 盛りなのである。


とか()う。 → のだとか。


、とかく用意するものが多い。 → が数日前から始まっている。


足りないものが出ても困る。 → から足りないものが出てきても困る。


「 とかく用意するものは多く今日はそれら注文の荷物が一斉に届くのだ。」追加


文官ならでは → 文官ならではのもの


効率重視である。 → 効率重視なのである。


「商人たちは」追加


「し、四家の目で必要なもの()らないものを確認するのだから間違いも少なくできる」追加


礼服 → 礼装


「帝国に併合された」追加


学徒の“護衛”という位置づけの従魔と称して → 学徒は従魔を“護衛”という位置づけに称して


「の武技」追加


「の御業」追加


騎士 → 騎士たち

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