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01友だち

 帝国というよりこの世の常識として、人人は資質の優劣を最も尊重し判断基準の前提としていた。

 それは発想力でも対話能力でも戦闘能力でも、とにかく秀でたものが()り努力次第で神にも人にも認められる。

 才能があれば性格が破綻していない限り、資質に見合った評価や地位を与えられる。

 だから、女性でも当主や長官に()くのは資質があれば当たり前のことであった。

 そして世継ぎとして選ばれるのは、その家の血を引いていれば生まれに関係なく資質の一番高い子とされるのは当然の流れかも知れない。

 そのため、王族ですら一夫一妻制を採り世継ぎは王の子というよりも、王家で一番資質の高いものとすることが大衆の常識であった。

 全ては資質の一つとして持って生まれた御業(みわざ)()う天恵をはっきりと知り得る方法があり、また技術を高め昇華すれば御業と()すこともできる現実。

 さらには、(まれ)に御業が子へと受け継がれることもあると()うこの世の常識が起因していた。



 リーシャはバグルス王国第一王女として万人に祝福される生を受けた。

 だが、帝国暦七二年のバグルス王国崩壊と共にラギストア帝国へ併合されたことによって、上の二人は東の地へ送られることとなり、ある程度の自由と帝国の従者が与えられる(てい)の良い隔離監視という処遇がなされる。

 もう一人の子とリーシャは王族という資質高き生まれを惜しまれ、帝国文官の低い階級に養子として引き取らせた。

(※リーシャの上3人は第一王子から第三王子である)


 ここでの文官たちが担う役目は敗戦に同意した、バグルス王族たちの保護と地位権威の剥奪である。

 例えば他国から来た妻や夫であるものは(おのおの)の母国へと家族を連れ帰り、伴侶の王位継承権を捨てさせると共に資質と関係なく当主の座へと()かせた。

 それは高い身分を保障する代わりに伴侶と子どもたちの監視教育を徹底させる目的があったからだ。

 また、()だ物心付く前のリーシャのような王族の子どもたちは、地位を低くする養子という処分(地位を一旦剥奪するが努力と資質次第で上限無く見合った地位を与えることを保証する)を生みの親たちへ十分納得させた同意の下である。


 そして、リーシャは帝国暦七三年にグラダード男爵家令嬢として迎えられた。


---

帝国暦七五年


「おはようございます。リーシャ様」


 寝具の(とばり)が開かれると緋色(ひいろ)の髪に蒼玉(そうぎょく)色の瞳をぱちくりさせる女の子が目を覚ました。


「おはよっ、マギー」


「目を(こす)っては駄目ですよ、リーシャ様。ささ、顔を洗いましょう」


 マギーはリーシャが二歳の時に専属侍女として与えられた十六歳の少女で、もうかれこれ二年の付き合いになる。

 

「おはようございますっ。とうさま、かあさま」


「おはようございます。リーシャ、夕べはよく眠れましたか?」

「おはよう、リーシャ」


「はいっ! かあさま、マギーにほんをよんでもらってたのっ」


「まあ! それは良かったわ」


 朝食は家族(そろ)って食べるのがグラダード家の習わしである。


「今日はね、リーシャへ紹介したい子たちが三人来てくれるのだよ。それでだね、リーシャはその子たちとお友だちになってあげてほしいのだよ」


「おともだちっ?」


 養父ガルトア・グラダードが(にこ)やかに話す子どもたちとは、同じ派閥に属する将来を見据えた顔合わせであった。


--


 昼餉(ひるげ)が終わり一刻(約二時間)ほど()ったぐらいに、(くだん)の少女たちは同派閥の親たちに伴われてやってきた。


「リーシャ、挨拶なさい」


「はいっ、とうさま。リーシャ・グラダードですっ、……四歳ですっ」


「ああ、(しっか)りしたお子さんだ。私はダルト・ハイストス、こっちが娘のベイミィ・ハイストス、同じ四歳だよ。さあ挨拶して」


「ベイミィですっ。よろしく、ですわっ」


 そして、順次子どもたちの挨拶がおこなわれた。


 この者たちの派閥は歴史的に長く、そして(まも)られている。

 それは帝国の行政を担う者たちであったからだ。

 人事や法律の細かい整備、歴史の記録、学問の整備、施設の整備など文官としての仕事を専門に特化した集団である。

 それは、帝国自体が他の派閥からの介入を嫌い、また他派閥も牽制し合うことでこの派閥の中立性を維持してきた。


 だからと()って子供たちの将来が束縛されている訳ではない。

 この世界には御業がある。授かる資質に()って、あるいは本人の目指すものに()って将来は自由に解放されていた。

 勿論(もちろん)、才能を有するものたちは他派閥からの勧誘があるし、子が違う派閥に移ったからといっても親にそれほど関係することはない。

 多少の融通はあるかもしれないが間違った配属、役職、整備をおこなわない。それが(まも)られる信の条件でもあるからだ。


 三人の子どもたちは銘銘をベイミィ・ハイストス子爵令嬢、チェロル・バーカイマー男爵令嬢、ティロット・スウェイン子爵令嬢と()う。

 下級貴族が多くともこの派閥に上級貴族が居ない訳ではなく、()くまで、いや、長きに(わた)るお友だちとして選ばれた子どもたちであった。


 子どもたちはそれぞれの侍女を伴い庭へと案内される。

 まあ、親たちは一から十まで世話を焼かないし相性だってあるだろう。

 後は勝手にやってくれである。


「ここねっ、かあさまとわたしが、せわしてるのっ」


 リーシャは頑張って庭の花たちを説明する。

 チェロルは侍女アイラの後ろに体半分を隠している。

 ベイミィは


「おはなばたけー」


 嬉しそうでなによりである。

 ティロットは……庭を走り回り侍女のライチェが必死に追っかけている。


 ベイミィが話に乗ってくれた御蔭(おかげ)なのか、リーシャはめげずに庭の説明をしていると、侍女アイラの後ろに隠れていたチェロルがいつの間にか前へと出てきており、なにやら(たず)ねてくるのだ。


「このこは?」


 チェロルの両手で(すく)い上げられた小さな小鳥は怪我(けが)をしているのか、飛べずに「ぴぃぴぃ」と泣いていた。

 皆は振り向き、走り回っていたティロットが足を止める。

 侍女アイラは後で一応、手を洗わせないといけない、そう心に決意する。

 そんなこんなで皆が集まりその手の平へと(のぞ)き込むものだから、チェロルは……平然としている。どうやら今手の平に()る小さな命のことで心が一杯(いっぱい)一杯(いっぱい)になり、この場では人見知りが解消されているらしい。

 それはともかく、皆がどの角度から(のぞ)いても小鳥には外傷が見当たらない。


「ことりさん、けがしてるの?」


 ベイミィが(たず)ねたことでリーシャは思い付く。先日習ったあの言葉を。


「[せいこうよっここにあれ]」


 きらきらとリーシャの周りが輝き始めた。

 それは聖光と()う【聖】の御業から()される癒やしの光であった。あの目に優しくない(やつ)である。

 しかし、ベイミィたちの目はそのきらきらに憧れを(いだ)くような、いや御伽噺(おとぎばなし)の聖光を思い出しているのだろう。そんな感じで見詰めていた。


「ぴぃぴぃ」


 (いささ)か元気を取り戻したように見受けられるが()だ飛ぶ気配は無い。

 すると、ティロットがなにやら指を差す。


「あれっ!」


 その声に釣られ皆は指差す方へ振り向いた。

 マギーはその方向へ【遠見】の御業を使い精査する。


「リーシャ様あの木の枝に小鳥の巣が見えます。恐らく()だ飛べず兄弟たちに押し退()けられて落ちたのでしょう。鳥たちはより生きる機会を求めて競い合うそうです。ああ難しいですよね。この子は巣に戻してあげても助けられないかも()れないのです」


 実は自分で暴れて落ちたのだが、それは知るはずもない。

 小鳥の兄弟たちは(あずか)り知らぬ濡れ衣を着せられたという失礼な話である。


「そだてるっ」


 リーシャの決心した目を見詰めマギーは一つ(うなず)いた。


「わかりました。奥様には私から話して許可を(たず)ねておきます」


 養母はサリア・グラダードの口添えもあってリーシャのお願いは滞り無く通り、養父ガルトア・グラダード男爵の許可を得ることとなる。

 小鳥はメルペイクと名付けられ日に日に元気を取り戻した。

 それからはメルペイクの様子を知りたがる子どもたち、ベイミィ、チェロル、ティロットの三人が自然と毎日集まるようになり、隔たり無く接し合えるのにそう時間は掛からなかった。



 あとで発覚したのだが、メルペイクが授かっている御業は【豪腕】のようである。

 図らずも(ひな)鳥たち兄弟を助けたのかも知れない。



---

修正記録 2018-03-25 07:26


文官たちの役目 → 文官たちが担う役目


バグルスの王族 → バグルス王族


「ものだから、チェロルは……平然としている。どうやら今手の平に()る小さな命のことで心が一杯(いっぱい)一杯(いっぱい)になり、この場では人見知りが解消されているらしい」追加


しかし → それはともかく、皆が


「あの」追加


「 小鳥の兄弟たちは(あずか)り知らぬ濡れ衣を着せられたという失礼な話である。」追加


「養母はサリア・グラダードの口添えもあって」移動


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