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XX救い

 なんでしょう、優しく包まれるこの(ぬく)もり。

 深いまどろみから徐徐に意識が覚醒へと移ろい()く。


「!?」


 目を開けると目に優しくない光と共に翠玉(すいぎょく)の瞳で(かぶ)さるよう見入る、やけに白く綺麗な女性。いえ、疲れからか顔色を蒼白(そうはく)とさせる白金の髪を後ろへ複雑に編み込んだ二十代後半と思わしき顔がある。

 なにゆえこれほどまでに凝視されているのでしょうか。

 自分はなにものでありましたのでしょうか。

 ここはどこなのでありましょうか。

 軽い意識の混濁は覚醒と共に薄まりつつあり、そのお(かげ)かちょっとずつ状況が(わか)りかけてきた。

 天井はともかく見覚えのある周囲の景色、そこは自分の部屋に間違いない。


「ア、アリア大公殿下、それにタリス皇帝陛下までもが、なぜここにいらせられるのでございましょうか。 そう、……私は、私は【時】の御業(みわざ)を行使してもう一つの世界に居る私へ……なにゆえ私は()だここで生きておりますのでしょうか」


 周りを意識すれば顔馴染(かおなじ)みのある皇帝近衛(このえ)騎士たち、その顔触れがそこらかしこに気配を消して控えているのが見て取れる。

 状況を理解するに連れ目的が失敗したのだと悟り、落胆と徒労感に包まれ自身の心がそれ一色へと染まり始める中、タリス皇帝陛下はそれを否定なされるように切り出された。


「恐らく【時】の御業は成功しましたのでしょうねー。リーシャちゃんはその際、魂を写すほどの強烈な思念をこの場に刻み付けておりましたのよ! アリアはリーシャちゃんを助けるために夜通し聖光を放つことで、身体が完全な死を受け入れないよう(とど)め置いたの! あの魔石を使ってこの場に残る思念を解析し、元となった心の器、その設計図を映し出すと、【治癒】の御業で壊れた器を修復したですよー」


 タリス皇帝陛下に続いてアリア大公殿下も口を開かれる。


「リーシャ公爵はどうせ私たちが反対したとしても、いずれ皆に黙って人知れず【時】の御業を行使し過去のある世界へとわたったのでしょう? だったら協力する振りをしつつ準備と時期を見計らって助けるのが、一番確実な手段であっただけの話ですわ」


 アリア大公殿下が話しながら時折向ける視線を辿(たど)れば机には3つの魔石が置かれており、その存在は今までなぜ気づかなかったのかと思わせるほど圧倒的なもの、威圧すら感じさせていた。


叡智(えいち)の魔石……他にも、この場へ(もち)いるために陛下が御身(おんみ)自らの御越しをいただけたのでございますね。しかし、私は今までこれほどの魔石が近くにありながら、なぜ気づけなかったのでしょう……」


 今まで当たり前にできていたことが突然とできなくなっていた。これほど不安で自分を信頼できないもどかしさはない。


「それは、リーシャ公爵の心の器を【時】の御業が写し取る際ずたずたに破壊したため、あらゆる処理領域が機能しなくなっておりましたからでしょうね。今なお、現在も私が【治癒】の御業で修復しておりますところなのですわよ」


「畏れ多くも誠に感謝いたします。そう、……私は助けていただいたのでございますね。私が旅立ったあと残されたものたちを見るのが、(おじ)気付いて決心を揺らげてしまうのが怖かったのです。過去に居る私が今の私を、生きている私を見てくれれば良いのですけれど……」


 部屋の扉が突然と開かれると小さな女の子、いえ、我が娘であるリシャラとそれを追って入ってくるなり慌てて取り押さえるベイミィ伯爵の姿が見える。

 扉を(まも)るはずの近衛(このえ)騎士たちは実に機能していない。


「リシャラ様、ここは陛下の御前でございますの。どうかご理解下さいませ」


「ベイミィ、放して! 私は長らく()せっていらっしゃるお母様を二日も見舞っていませんのよ。お母様は私を見ると元気が出ると(おっしゃ)られておりましたの! ですから会わせてほしいの、ベイミィ」


 一方、タリス皇帝陛下は(しき)りに(うなず)かれていらせられるので、なにか琴線に触れたのかもしれない。


「うんうん、これが全うな七歳の子と()うものですよ! それに比べてアリアと来たら変にもの物分かりが良いと()うか冷めておると()うか、とにかくつまらない子でしたのよねー。私が小さい頃は必要とあらば屋敷の一つや二つ根刮(ねこそ)ぎ消し炭に変えたものですよ!」


「それのどこが幼子らしいと()うのですか!」


 アリア大公殿下の反論はどこ吹く風、タリス皇帝陛下は何食わぬ顔で聞き流し本題を口にする。


「ともかくベイミィちゃん、もう危険な状態は脱しましたからアリアの邪魔をしない限りであれば、リシャラちゃんを部屋に入れても問題はありませんよー」


「ありがたき御言葉、痛み入ります」


 リシャラを抱えたままのベイミィが礼をとり、そう恐縮の意を述べると


「あ、タリス皇帝陛下、お騒がせいたしましたばかりか、わたくしの我が(まま)まで通していただき感謝いたします」


 続けてリシャラは抱えられたまま礼をとり、そう謝意を述べる。

 たぶん、この場を理解しての行動なのでしょうから確信犯に違いない。

 果たしてこれが幼子らしいと()えるのかは大いに謎ですね。


 帝国暦九八年



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修正記録 2018-04-16 15:08


(ぬく)もり → この(ぬく)もり


蒼白とさせ → 蒼白(そうはく)とさせる


「天井はともかく」追加


「周囲の」追加


完全に死 → 完全な死


現在も私の → 現在も私が


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修正記録 2018-03-24 18:13


お騒がせしたばかりか → お騒がせいたしましたばかりか


 帝国歴九八年 →  帝国暦九八年

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