表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

レタスに願いを

作者: チャーコ

 台所のシンクで、夕食用のレタスをちぎっていた。

 家族がサラダを好むので、いつもレタスは多くちぎるけど、今日はさらに多量にちぎる。今日の私はレタス以外受け付けそうもないから。


 叶わない想いだと知っていたけど、好きになってしまったあの人。とても格好良くて、優しくて、「可愛いよ」と囁いてくれる言葉が嬉しくて。


「好き」


 困らせるかな、と思ったけど、気づいたら口から出ていた。彼はにっこり笑っていつも通り「可愛いよ」と返してくれた。


 今までの私はおよそ「可愛い」などという表現は無縁で過ごしてきた。だから、つい舞い上がって彼を好きになってしまった。不釣り合いだとわかっていても。


 でも──彼は私に他の人を好きになるよう勧める。切ない気持ちを押し殺しながら、それを躱していたけれど──。


「好き」

「可愛いよ」

「行くところがあるの」

「いい出会いがあるといいね」


 お互いの心の中は平行線のまま、やがて私は根負けした。


「失恋だってわかっていたけど──。ちゃんとこれから、私に似合いの人を探します。最後に言わせて。あなたが大好きです」

「──ありがとう」


 涙は出なかったけど、胸に大きな穴があいたような気がした。人生で何回目かの失恋は、やっぱり悲しみの感情に慣れることができなくて。空虚な気持ちを抱えたまま、視線を手元のレタスに落とす。

 瑞々しい葉から流れた水分が、私の渇いた心をほんの少し癒やしてくれた。



「それしか食べないの?」

「うん、今日はレタスだけでいいの」


 家族に問われて、取り皿のレタスを眺めながら答える。ドレッシングもかけないで、無心にレタスを食べていると、失恋が嘘のように思えた。でも──嘘じゃないから、内心で泣きながら、水気を多く含んだレタスを口にする。


 レタスの水分が、私の傷心を洗い流してくれるように願った。レタスさん、どうか私を元気づけて、見守っていて──。


 彼とは違う声で、どこかから「可愛い」と聞こえてきたのは幻ではないはずだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 綺麗な表現だからこそ主人公の気持ちに切なくなりました。心地の良い言葉ばかりなのは時に残酷なのかなと……。偶然なのかもですが野菜の中でレタスだったのが合っていたんだなって感じました。
[良い点] うわぁ…。切ないです。 それにしても、流れるように美しい文章表現でした。 短い物語ですけど、最後まで読者を惹きつける力のある純文学的恋愛作品だと思いました。 好きな人からそういうあしらい…
[一言] 涙も出ないほどの喪失感 身に覚えアリアリなので切なかったです。 「可愛いよ」の言葉の残酷さも、我が身に引き寄せて読みました。 レタス…… いいですね きっとレタスくんは主人公を心底から励…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ