勉強が得意だった少年の話
少年は勉強が得意だった。
彼にとって勉強とは、頭に知識を詰め込むことだった。
愚直に、機械的に、知識を溜め込み続ける。
問題集を解くときは、最初に答えと解説を見る。
新しい問題の解き方を、一から考えるのは疲れるから。
解法さえ覚えておけば、類似問題は楽に解けた。
授業では先生の質問に答えられなくても、試験では毎回満点近い成績をおさめた。
少年に対して、親は褒めそやし、先生は一目置き、クラスメイトは尊敬の眼差しを向け、見ず知らずの女生徒は好意を寄せた。
「◯◯くんは頭がいいね」
少年の自尊心は満たされ、さらに勉強時間が増えた。
難関校の受験を余裕で突破し、少年はふと我に返った。
自分は何のために勉強しているんだろう。自分は何になるために勉強してきたんだろう。
答えはない。そんなもの、考えたことすらなかった。
承認欲求を満たすためだけに、勉強という名の作業を続けてきた。
「それの何がいけないんだ」
と心のどこかで声がした。
これまで要領よくやってきたじゃないか。
これからもそれを続ければいい。
与えられた問題を、既に確立されている解法で効率的に解くんだ。
やがて少年は難関大に入学した。
彼の勉学に、やはり確固たる目的意識はない。
漠然と、将来は大企業に入社し、安穏と、高給で、定時帰りが可能な職に就ければいいと考えていた。
勉強はずっと前から、いや、初めから、好きではなかった。
彼にとって勉強とは、承認欲求を満たし、輝かしい学歴を得るためのツールでしかなかった。
社会に出た後、行き着く先は指示待ち人間であることに彼は気づいた。
しかし彼が考え方を転換するには、彼はあまりに歳を取り過ぎていた。