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鬼に恋して  作者: 八神
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1.4:いじめ

 平日にもかかわらず波際市にある薄野公園は花見をする人々で賑わっていた。

 日本人は何故桜を愛でるのだろうか。

 レジャーシートを広げ談笑をする老人たち。父親に肩車をされ桜を触ろうとする子供。その姿は一様に優しさで包まれているようだ。

 彼らは心に余裕があるのだと思う。*追記予定

 平林拓也と別れた弘樹は薄野公園にあるベンチに座り込み、溜め込んでいた息を吐き出した。

 ―まさかあいつ等に会うなんて。―

 学校を出るのに体育館裏を通ったのがまずかった。始業式をすっぽかしていたいじめっ子達に運悪く見つかってしまったのだ。足の速さにだけは自信があったので何とか学校からは逃げられたが、制服は汗でべたべた足はじんじんと痛みを放っている。

 早く帰ってシャワーでも浴びよう。そう考えていた弘樹は自分が今来た方角から全速力で走ってくる柔道部員を見て冷や汗をたらした。

 「くそっ。何てしつこさだ。」

 思わず悪態をつきまた走り出す。さすが現役の体育会。中学の時に陸上部だったとは言え、この数年間自分はトレーニングらしいトレーニングをしていない。そろそろスタミナも限界である。

 「ホモ野郎、逃げるんじゃねえ。」

 後ろを振り返ると同じクラスの鈴木桂が大声で怒鳴っているのが見える。学校で出会った時は五人ほどの人数だったがどうやら他の連中は追いついてきていないらしい。そもそも学校があるというのに学校の敷地の外に出てること事態がおかしいのだ。

 昨年の柔道部は鬼道力也のおかげで、県大会の上位に食い込むことができたと弘樹も耳にしていた。今年こそは優勝かと期待されている時に『いじめ』などしている暇があるのだろうか。

 「何で俺たちをほっといてくれないんだ。」

 今までされるがままにしてきた感情にふつふつと湧き上がるものがある。それが怒りだとわかるのに時間はかからなかった。別にあいつに告白をしたわけでもないのに嫌われる云われは無い。

 「糞が、今日は一泡吹かせてやる。」

 告白をしようと考えてから頭の調子がいい。何事にもプラス思考に考えられるようになっていた。その頭で公園の地図を思い浮かべる。

 噴水のある広場から北へ向かうと、幼稚園などの児童が砂遊びをしている広場が見えてきた。幼稚園児を巻き込まないように外側から迂回しながらも目的の場所へと向かった。

 弘樹が来たのは小さな橋だった。公園にある五メートルほどの高低差のある丘と丘とをつないでいる長さが十メートルも無い橋である。小学校の時に良く友達と揺れるつり橋を使って遊んだのを思い出したのだ。

 「ようやく追いついた。」

 さすがの桂も息を切らしていた。追いつかれる前に急いで反対側へと渡り桂と対峙する。がちんこで柔道部員とやるのはさすがに分が悪い。ならばつり橋のような足場が不安定な場所で戦えば、幼いころに遊んだことのある分地の利を得られるかもしれないと踏んだのだ。

 「逃げる必要が無くなったからな。さあかかってこいよ。」

 技と挑発して桂がつり橋を渡るように仕向ける。

 一発だけでも殴り飛ばしてやる。そう思い拳を握り締めた。

 しかし相手の反応は弘樹の予想とは違ったものだった。橋を見た桂がどういう訳か挙動不審になったのだ。渡ろうか渡るまいか考えているように見える。こちらの考えを読んでいるのか。それとも別の理由のためか。ありえないかもしれないが興味がわき桂に尋ねてみる。

 「おまえ高いところ苦手なのか。」

 弘樹の言葉に桂は眼に見えて動揺した。それでも気丈に一歩を踏み出し橋の上に立つ。ゆっくりとこちらに近づこうとする桂を見て弘樹は技と橋を揺らした。

 「て・・・てめえ、揺らすんじゃねえ。」

 その光景を見て弘樹ははあと盛大なため息をついた。

 「何か馬鹿らしくなってきたな・・・。」

 つり橋の端にこしかけ桂を見据える。

 「おまえさあ。何か悩みでもあんの?」

 腹を割って話すには絶好の機会のような気がしたので質問を投げかけてみる。

 「答えないつもりなら揺らすけど。」

 つり橋の手すりに捕まりながらだんまりを決め込む桂を今度は脅してみる。すると桂は弘樹と同じように橋に座り下を見ないようにしながら話し始めた。話をしているうちに、桂が弘樹を『いじめ』ていたのはストレスのはけ口を求めていたからだとわかった。

 「高校に入ってから練習がきつくてよ。顧問にも打たれるし、痛みと自分のできの悪さに苛立って、おまえを『いじめ』てた。」

 「俺を『いじめ』てストレス発散になった?」

 「・・・そうでも無いな。」

 「そうか。発散にならんならできればやめて欲しいな。俺も蹴られたり殴られたりすると痛いんだよ。ホモ野郎も同じ人間だし、普通の高校生だからな。」

 「そうだな。そうだよな・・・。」

 話をしてみると桂は何てことは無い普通の高校生だった。家族の話、趣味の話、そして部活の教師の悪口。一通り話を終えた後、桂はすっきりした表情をしていた。

 「俺もう学校もどるわ。」

 「ああ、またな。」

 桂はまだ何か言いたそうな顔をしたが、すぐに弘樹に背を向け学校へ向かって走っていった。遠くからは幼稚園の生徒達の楽しそうな笑い声が聞こえる。

 「『指導』か。」

 桂が去った後弘樹はため息をついた。

 桂が弘樹を『いじめ』ていたのは彼自身がストレスを発散するため。そのストレスは柔道部顧問の与える『指導』によって発生していることが彼の話からわかった。他の奴らもそうなのだろうか。何か悩みを抱えて自分に暴力を振るうのだろうか。そうだとしたらどうする。このまま彼らのストレスのはけ口になるのか。

 「わからん。さっぱりわからん。」

 頭が爆発しそうになり、気分を変えるためにごろんとつり橋に仰向けになって弘樹は空を見上げた。やけに雲が多い空だった。

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