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鬼に恋して  作者: 八神
33/34

4.7:23日

 終業式が終わった日の放課後、士郎は恵子に付き添ってもらい買い物に来ていた。学校から商店街を抜け海辺駅周辺の大型ショッピングモールを回る。

 クリスマスということもあり子供連れの大人やカップル同士で来る若者で店内は賑わっていた。ショッピングモールは5階まであり上は高級レストランや市で唯一の映画館などがある。

 「どういうものが喜ばれるんだろう。」

 1階から順々に店を冷やかしていた士郎は恵子に助言をもとめた。

 「そうね。私だったらおそろいのものを買うかな。」

 「例えば?」

 「お揃いのキーホルダーとか。」

 「う~ん。男はそういうの貰って嬉しいのかな。」

 「力也が自分の柔道着を入れるスポーツバッグにキーホルダーをつける。微笑ましいわね。」

 「ネットで調べたんだけど。高校生の彼氏への誕生日プレゼントは、財布をあげるのが一番人気みたいだったな。」

 「ふむふむ。じゃあ私はそれにしようかしら。」

 「きったね。」

 「やっぱ一緒に来てよかったわ。それとクリスマス会用のプレゼントを適当に買わないと。」

 わいわいと騒ぎながら二人は買い物を済ませていく。結局悩みに悩んだ末時計を買うことにした。

 「時計って・・・、しかもそんな高級なものを。」

 「・・・思いつかなくて。バイト代はけっこう貯まってたしたまにはいいかな。」

 「本当に力也は幸せものだわ。」

 買い物が終わり士郎は付き合ってくれたお礼にと、昼食をごちそうした。

 人心地つき家に帰ろうとすると商店街で二人は見知らぬ女性に声をかけられた。

 「すみません。小野寺神社にはどうやって行けばいいでしょうか。」

 「小野寺神社なら海辺駅からバスが出ているので、朱雀山前で降りて山道を道なりに30分ほど歩いた先にありますよ。」

 昔から困っている人を放っておけない性格だったので士郎はにこやかに道順を説明した。

 不思議な雰囲気をもつ女性だった。年は40代位だろうか。足までのびた長いコートを着込みポケットには手を入れている。

 「ありがとうございます。」

 頭を下げ海辺駅に向かう女性を見送る。

 「何だろう。不思議な雰囲気な人だね。」

 恵子も自分と同じことを考えていたようだ。

 しばらく二人が歩道で立ち止まっていると黒塗りの車が近くに止まった。

 「今の方は?」

 鬼道真美が後部座席から現れるなりそう尋ねた。力也と付き合い始めてからというものいつの間にか真美は自分へ敬語で話すようになっていた。

 「さあ、道を聞かれただけ。」

 「そうですか。」

 「何か気になることでも?」

 「ええ。昨日お兄様と鈴木桂という友人が荻窪栄瞬に襲われたそうです。」

 「なんですって。」

 士郎よりも恵子のほうが驚きは大きいようだった。恵子は桂に家業の話をしていない様子だったし戸惑うのも無理はない。

 「幸いお兄様が栄瞬を返り討ちにし、病院送りにしたおかげでようやく彼を捕まえることができましたが未だに彼の妻である荻窪真弓の居所を掴むことができておりません。」

 「さっきの人がその真弓さんだったとでも?」

 「鬼の瞳が罪を感じ取っていないのなら間違いないでしょうが、彼女はどちらに向かわれましたか。」

 「小野寺神社に行くと言っていた。」

 「小野寺神社・・・。あそこは結界がありますし罪人は入れませんが。妙な胸騒ぎがします。渡辺、念のため富樫の忍びを小野寺神社へ。小野寺の爺さんにも連絡をいれておきなさい。」

 「了解しました。」

 車の助手席側の窓を開け話を聞いていた渡辺に真美は指示を出した。指示を出し終えるとすぐにまた少女は二人を振り返る。彼女がここに来た理由をまだ聞いていなかった。

 「最後の日が決まりました。」

 その一言で楽しかった気分が一瞬で消え失せた。

 せめてクリスマスが終わるまでは聞きたくなかった言葉だ。

 「何時になったんだ。」

 士郎が尋ねる。

 「31日の大晦日になりました。表向きは直下型の地震が波際市を襲うということにしてあります。八神殿はお兄様が迎えに行きますので、お兄様の指示に従って海辺駅にお越しください。」

 では失礼しますと頭を下げ真美が車の中に戻った。

 残された二人に静寂が降りる。二人はそれぞれ全く別々のことを考えていた。


 「あれが八神士郎君か。中々いい目をしている。」

 朱雀山前でバスを降りた女はため息混じりにそう呟いた。

 吐く息が白い。どんよりとした黒い雲が白虎山の方から流れてきていた。明日か明後日には雪が降るだろう。そう女は予想した。

 バス停から山道を30分ほど歩き小野寺神社へ入る。途中小野寺家の張った罪人用の結界をやすやすと突破した女は鳥居をくぐった。

 「あら。」

 境内に入ると女を待ち構えていたように老人が立っていた。

 この神社の神主だろうか。どことなく自分と同じ匂いがする。

 「お主・・・。術者じゃな。」

 片目だけをあけて老人は女を見据えた。

 「そういうあなたも。」

 コートのポケットに手を入れたまま女は老人と向き合う。

 「この神社に何のようじゃ。悪いがここはちょっと特別な場所でな。術者の参拝は許可できないことになっておる。」

 「そんなことは知っている。ここは四方を囲む結界の要になっている場所だ。つまりここを落とせば私は逃げられる。」

 女の言葉に老人は身構えた。

 「なるほど荻窪真弓じゃったか。顔が違ってわからんかった。しかし逃げてどうするというのだ。罪からは逃げられん。お主はいづれ鬼となる。」

 「それがそうでも無いのですよ。私の術を使えば対象と被対象物の一部を入れ替えることができるのです。ただし身内以外の人間にしか使えず人間に使う場合は許可も必要なのですが。」

 「ぺらぺらと自分の能力を話すとはえらく余裕じゃな。」

 「何の理由も無く説明はしませんよ。術の発動に必要なことは、肉体的枷、制約、宣告、対価です。」

 条件は全てクリアーした。

 「それでは始めましょうか。」

 真弓がそう言うのと同時に老人の頭上に先ほどくぐってきた鳥居が落ちた。

 「なるほどあなたが結界を作ったいたのですか。」

 鳥居に押しつぶされ動かなくなった老人を見て無感動に声をなげかける。

 四方の山を取り囲んでいた結界の気配が消え、それと入れかわりに鬼のおぞましい気配が当りに満ちるのを感じた。

 こんなはずでは無かった。鬼若を討伐して世界に平和をもたらすはずだったのに。

 嘆く真弓の心も、術を使った対価としてまた一つ感情を失い落ち着きを取り戻していく。

 「何のために・・・私は、生きて。」

 女の呟きに答えるものはいなかった。

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