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鬼に恋して  作者: 八神
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4.6:世界を守る仕事

 「だあ、結局今年は勝てなかった。」

 足を放り出し放心状態で桂は格技館の天井を仰ぎ見た。

 「まだまだだな。」

 そう言いながら力也はすぐに呼吸を整えると倒れている自分に手を差し伸べた。

 夏休み明けはどことなく上の空だった力也も、学園祭の後からまた凄まじい速度で成長を始めていた。

 今年中に一度は勝てるかもしれないと思っていたが、中々簡単にはいかないようだ。それでこそ我が好敵手に相応しい相手だと言えよう。

 「明日で二学期も終わりか。今年は大会が無かったのに偉く充実していたな。」

 「そうだな。本当に今年は充実していた。」

 帰り支度を整え力也と二人で帰路を歩いている。

 普段は八神と西村さんと一緒に帰るので、何だか二人で帰るのは久しぶりな感じがした。4人で一緒にいられたこの一年は、桂にとってかけがえの無いものだった。

 特に気を張る必要も無く一緒にいられるだけで楽しくなる。来年は3年になり受験が控えているが、より一層楽しくなる。そんな気がした。

 「力也は進路どうすんだ。」

 歩くたびに通学鞄と柔道着をいれたスポーツバックがひょこひょこと揺れる。

 「スポーツ推薦を狙えれば狙っていくかな。家を継げって妹が煩いから。どうなるかはわからないけど。」

 「ふうん。妹がいるんだ。家は何をやってるんだ?」

 「世界を守る仕事。」

 一瞬冗談だと思い笑い飛ばそうとしたが、力也の顔はとてもそんなことを言っている表情では無かった。凛々しいと言えばいいのだろうか。どこか覚悟を決めたような表情。自分とは違う大人の男の顔に見えた。

 「おい、尾いてくるならここまでにしろ。」

 力也が突然背後を振り向いた。

 「気づかれちゃいましたか。」

 力也の言葉通り、電信柱の影からひょいと男が姿を現した。どうやって力也は気づいたのだろうか。桂は全く気づかなかった。

 自分の知らない男だ。灰色のスーツの上からコートを着込み頭には紺色の帽子をのせている。物腰は軽そうだが隙が無いように見えた。

 「さすがに私達も余裕が無くなってきましたので。ご友人に駒にでもなって貰おうかと思って尾けさせてもらいました。」

 「俺に毒を盛ることといい。やり方が汚いな。」

 「何とでも言ってください。私は鬼若を倒せなければならないのです。」

 「そんなことで世界が変わるとは思えないけどな。」

 「あなたが協力してくれれば世界が救えるかも知れないんですよ。」

 とても協力を申し出ているようには桂には見えなかった。男がスーツの中から拳銃を取り出し自分に向けて銃口を向けたからだ。

 「鬼若を呼び出すには士郎の瞳がいるんだろ。俺だけなら別にいい。だけどな、あいつを傷つけるつもりなら俺は絶対に許さない。」

 力也がそう宣言をするのと同時に銃声が鳴り響いた。

 力也が拳を前に差し出し拳を開くと、今男から放たれたであろう弾丸が地面へと落ちた。

 「小癪な。」

 自体が把握できていない桂は、その現実離れした戦いを見守ることしかできなかった。

 放たれる銃弾をかわし懐に潜り込んだ力也は男の首に掌底をいれようとした。男が銃をクロスさせてそれを防ごうとするが、力也の力が強すぎるせいで男が吹き飛んだ。追撃しようとした力也が爆風に包まれる。吹き飛ばされる直前に男は手榴弾を落としていたのだ。

 「八神流、空蝉」

 男が背後を振り返るがもう遅い。爆発に巻き込まれたのは力也の上着だけだった。

 「鬼道流、岩砕き」

 以前八神に桂がやられた技を力也が男に向けて放った。拳は寸前で止めているのにもかかわらず八神は衝撃だけを桂に与えたが、力也の技は男の骨を内部から砕いた。

 「くっ、こんなところで。」

 全身の骨を砕かれた男は呻き声をあげて地面に崩れ落ちた。力也は冷たい視線を向け携帯でどこかに電話をかける。

 「これが世界を守る仕事なのか。」

 呆気にとられた桂はそれしか言うことができなかった。

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